『LOVEHOTELS』35点(100点満点中)
ラブホを舞台にした4つのドラマ
その名のとおり、ラブホテルを舞台にした男女のドラマ。登場人物も物語も違う短編4部構成で、その合間には飲み会と思しき若い男女の、恋愛に関する雑談がはさまれる。
さて、ラブホテルといえば、日本独自の文化。壁の薄い集合住宅、狭い一戸建てなど日本独特の貧しい住宅事情と、少々奥手な国民性が生んだ、不思議な存在だ。
不倫・浮気カップル、両親と同居中の新婚夫婦、まだ独立してない若い二人、自分の部屋ではできない特殊な性癖……匿名性の高い室内では、想像するだけで様々なドラマが展開していそうだ。ここに目をつけ、「ラブホテル」をテーマに映画を作るというのは、いいアイデアだ。場合によっては世界中の人々の興味を集めることもできるだろう。
この監督は、このアイデアを4つの物語に発展させた。一つ目は、クリスマスの夜にラブホテルに誘われた女(原田佳奈)の話。しかも同時に二人から。彼女は苦肉の策で、同じホテルの別の部屋で待ち合わせ、二つの部屋を行き来するのだが……。クリスマスに一人でいる寂しさと、その埋め合わせを優先する女の愚かさ、寂しさがやるせない。
2つ目は、学生時代からの友人3人(男、女、女)のお話。そのうち二人は夫婦で幼い子供もいる。そして、残りの一人は浮気相手だ。車の中でお口でご奉仕中、オトコの妻と息子に見つかってしまうという恐ろしいシーンが見所。
3つ目の話は、長年のセフレ同士の物語。抜群にカラダの相性が良いため別れられず、ダラダラと付き合っている二人。だが、あるとき女(三浦敦子)の前に、本気で愛を告白する別の男が現れる。ちなみに、激しいセックスシーンが見られるのはこの第3篇だけ。色っぽい表情のグラビアで人気の三浦敦子の、おわん型の美乳が激しく揺れる。
最後は、これまでとは打って変わったノーテンキなコメディタッチの1本。ラブホ経営者の高校生の娘(サエコ)が、父の急逝により急遽毛嫌いしていた家業を継ぐ、というお話だ。肉欲におぼれる男女を見つづけてきたためか、恋愛もオトコも、どこが面白いのかさっぱりわからない彼女。でもそのそばには、以前から彼女に思いを寄せる男の子がいるのだが……。ヒロイン役のサエコは、可愛らしい顔と声がコメディにぴったり。好感度抜群のキャラクターで、最後をさわやかなドラマで締めてくれる。ラブホテルの内幕が色々とわかり、トリビア的な楽しさもある。
『LOVEHOTELS』は、そんなわけでとても着想自体は良かったのだが、少々優等生っぽいというか、綺麗に作ろうとしすぎており、せっかくのアイデアの掘り下げがなっていない。せっかく、世界に類を見ない文化をテーマにしているのに、そこならではの物語になっていないように見える。ラブホテルでなければ見つからなかったドラマ、特殊な物語の中に普遍的な人間性を描くよう、もっと頭をひねるべきであった。
また、舞台が舞台なのだから、もっとハダカに対しておおらかであれ、と思う。外では大人しい日本の女の子の、じつは情熱的な一面をどんどん見せたらいいし、製作費100億円のハリウッド映画と同じ料金を払ってやってくる観客へのサービスも、重視してほしいところだ。
『LOVEHOTELS』は、まだまだ学生の自主映画に毛が生えたようなものだ。明確に観客層、誰に何を伝えるのかという点を意識していないから、全体的な印象がぼやけ、テーマもあいまいになっている。監督には、次回作に期待したい。
ところで、ラブホテル文化に目をつけるアーティストというのは案外いるようで、私の友人も東京・渋谷のホテル街で、面白い企画を進行中だそうである。それは、提携するホテルの部屋を、彼らがアーティスティックに演出するというもので、完成したらオシャレな人々の間では結構な話題を呼ぶはずだ。その暁には、ぜひ私も体験取材に行きたい。でも、悲しいかな助手がいない。