『ブギーマン』35点(100点満点中)

アメリカ育ちの方なら多少は怖い?

このタイトルをみたとき私は、ジョン・カーペンターの傑作ホラー『ハロウィン』シリーズに登場する殺人鬼の名前を真っ先に連想した。つまり、この映画はあのシリーズのリメイクだと思ったのである。

ところがそれは大きな間違いであった。なんでもブギーマンとは、欧米ではほとんど一般名詞に近いものだという。具体的には、子供をさらっていく架空の化け物を意味する。

そんなわけで本作は、『ハロウィン』とは無関係の、米国人の原体験的恐怖を描いた、正統派のオリジナルホラームービーである。

主人公はあるトラウマを抱えた青年。彼のトラウマとは、幼いころ父親が"ブギーマン"により、目の前で部屋のクロゼットの奥へ連れ去られてしまったこと。もちろん、誰にも信じてはもらえず、父は失踪したことになっていた。そんな彼のもとへ、母親の訃報が届く。そしてそれを契機に、彼は再びブギーマンと遭遇、対決することになる。

ホラー映画としては、私がコケ脅しとよぶ、驚かすためだけのビックリシーンが多数あるだけで、じつにたわいない。新アイデアで勝負というより、王道の演出、物語をなぞった昔ながらのベーシックな作品だ。

ブギーマンと名がついているとはいえ、闇に引き込む化物が何なのかはハッキリとわからない。つまり、決して『ハロウィン』や『13日の金曜日』のような、殺人鬼ものではない。かといって『ラストサマー』などの明るいティーン系でもない。日本では、清水崇監督が『呪怨』でやったような恐怖映画に近い。あれのアメリカ版だと思えばよさそうだ。

恐怖の根源は押し入れならぬ、クロゼットの奥の闇。そこに何かが潜んでいるのではないか。これはまさしくアチラの子供たちが共通して持っている、恐怖の記憶である。このあたりが受けたか、アメリカではこれ、デートムービーとして好評を博した。クロゼットの奥にファンタジックな国があった『ナルニア国物語』の後にでも見たら、ひどい冗談のようでそれなりに楽しめよう。

しかし、中に何かが潜むような広大なクロゼットを持つ人は別として、多くの日本人にとってそれは恐怖の対象ではあるまい。いまどきの日本人にとって、クロゼットから出てくるものといえば、千利休や信長、そして小野妹子である。もはやお笑いの対象でしかない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.