『ポセイドン』40点(100点満点中)
見てくれだけは似ているが
72年の傑作パニック映画のリメイク。この映画のオリジナル『ポセイドン・アドベンチャー』は、テレビ地上派で何度も放映されているから、若い人でも見た方は多いのではないだろうか。
大晦日の夜、遠洋航海中の豪華客船ポセイドン号が大津波により転覆、さかさまになってしまう。4000人の乗員乗客の多くが海に沈み、残った者たちによるサバイバル劇が始まる。
大予算をかけた、海洋パニック映画だ。洪水のような大量の浸水、逃げ惑う多数の乗客たち……。さかさまになった客船セット内で、出口を求めて主人公たちが奮闘する姿を、最新の視覚効果技術を駆使して描く。
おおまかな展開はオリジナルと同じだが、それ以外に共通点はあまりない。時代設定もキャラクターも違う。
そして、最も大きな違いは、オリジナルに含まれていた優れたテーマ性、深みといったものが皆無ということだ。つまり、
『ポセイドン・アドベンチャー』−(人間ドラマ+テーマ性)=『ポセイドン』
というわけだ。オリジナルより優れているのは、CGやらなにやらといった見た目の迫力だけ。
しかし、そもそもパニック映画というものは、極限状態における人間ドラマが大きな見所。パニックそのものを描くだけでは、主人公から個性、人間性を排除した、アクションものテレビゲームと変わりがない。
無論、それでも十分に、現代の映像技術を大画面で堪能するという楽しみはあるし、それだけに期待するならばこれで十分だろう。
ただしそれでは、「見終わって10秒で忘却の彼方」になる事間違いない。100億円以上もかけ、あの名作をリメイクするのだから、それじゃあまりにもったいない。
前作で、おばちゃんが潜水するシーンや、刑事が号泣する場面、主人公の最後の決断などといった名場面が、なぜあれほどの感動を呼ぶのか。それは、それぞれのシーンに訴えたいテーマというものが明確に存在し、それが観客にきっちり伝わるからに他ならない。上っ面だけを真似るのではなく、そうした理由をしっかりと研究、理解した上でリメイクしてほしいものだ。
確かに、ほぼすべてCGによる冒頭約3分間の全景シーンなど、現代の映画としても最上級の、ものすごい視覚効果を誇る作品ではある。しかし、これを見ていると、「何でもできるために、逆に何をしていいかわからない」ジレンマに陥っているようにも感じられる。オープニング以上の驚きが本編になく、アイデア不足を感じさせる。
結局のところ、『ポセイドン』は、筋書きこそ同じだが、オリジナルの意思は受け継いでいない。見てくれの迫力だけは1000倍だが、演出は明らかに劣化した。伏線を張り、コツコツ回収するという地道な脚本上の仕掛けもない。また、死体ばかりたくさん流れてきて、無駄に気持ち悪い。あまり期待せずに観にいく事をおすすめする。