『アンジェラ』30点(100点満点中)
リュック・ベッソン監督暴走中?!
『レオン』『フィフスエレメント』といった"愛"をテーマにした作品で人気を博すフランスの人気監督リュック・ベッソン。しかし、最近は脚本や製作業ばかりで、実は監督作品というのは99年の『ジャンヌ・ダルク』以来、本作が約6年ぶりとなる。そんな『アンジェラ』は、やはり最近の彼らしい、純愛をテーマにした情熱的な一本であった。
舞台はパリ。マフィアへの借金返済期限が48時間後に迫った主人公(ジャメル・ドゥブーズ)は、絶望のあまりセーヌ河へ飛び込もうと決意する。ところがその時、突然隣に現れた美女が、先に飛び込んでしまい、彼女を助ける羽目になる。彼女はアンジェラ(リー・ラスムッセン)と名乗り、その後彼と行動をともにするのだが……。
『アンジェラ』はかなりの異色作だが、同時にいかにもこの監督が好みそうな話である。いや、むしろこの作品は、ベッソン監督の"願望"、"妄想"が、これまででもっとも如実に現れた個人的な映画ではないかと思う。
全編モノクロで、明け方や夕方を中心にロケしただけあって、ほとんど無人のパリの風景は実に幻想的。ファンタジックな物語を映像面でもわかりやすく演出する。
主人公の男は片腕がなく(J・ドゥブーズは『アメリ』にも出ていたフランスの片腕コメディアン)、借金も返せない駄目男。コンプレックスと自己嫌悪に溢れたこの男を、娼婦の格好をした謎の美女が癒しつづける物語だ。
この男や娼婦といった、社会の底辺で生き続ける存在への一種の憧れ、そして長身(随所で身長差は強調される)に象徴される、母性溢れる美女に愛される主人公、といういつものパターン。それに加え、今回のヒロインの素性を考えると、少々ベッソン監督、今回は暴走気味ではないかと思われる。これでは見ている方は恥ずかしくてたまらない。
『アンジェラ』は本国で酷評を浴びた気の毒な作品だが、その理由の一つに、ヒロインのアンジェラのキャラクターにこの女優がまったく似合っていないという点があげられる。背が高くてスタイル抜群てのはいいとしても、この女優にはかわいらしさが足りない。この役をやるには、女性ならではの強さとともに、"弱さ"が絶対に必要であった。
でなければ、監督が「絶対バラさないでね」と語る驚愕のラスト(笑)が、生きてこない。ちょいと有名になりすぎてしまったのでアレだが、どうせならまだ監督のもと奥さん、ミラ・ジョボヴィッチあたりがやったほうが似合っていただろうと私は思う。
『アンジェラ』は、監督の個人的好みが先走ってしまった結果、観客の多くがついていけないほど恥ずかしい一本に仕上がった。かなり多くの方にとって『アンジェラ』は、トンデモに属する映画である。見終わった人々の感想の中でトップは間違いなく、「……なにこれ?」であろう。