『キャッチ ア ウェーブ』40点(100点満点中)
お話は子供っぽいが、加藤ローサの魅力がはじける
『キャッチ ア ウェーブ』といえば、小倉智昭である。彼が、自身がメインキャスターをつとめる番組、とくダネ!のオープニングトークで絶賛したために、この映画の原作小説はベストセラーとなった。
私はそのときの放送は見ていないが、あの番組のオープニングトークは確かに目の付け所がいい。小倉氏はあのトークに相当力を入れているそうで、毎回ディレクターと入念に打ち合わせ、ネタ探しにも精を出しているそうだ。
そんなわけで、小説『キャッチ ア ウェーブ』は、あっという間に映画化が決まり、天下のワーナーブラザーズ映画によって全国公開されることになった。
まさにシンデレラストーリーだなと思うのは、この作者の豊田和真が現役の高校生で、将来は映画作りを志しているらしいという点だ。高校生で印税生活。まさに前途は洋々である。
主人公はさえない高校生3人組。その一人の親の別荘で、3人だけで楽しい一夏を過ごすべく、湘南にやってきた。ところが浜辺で別荘のカギを無くし、途方にくれてしまう。しかし、偶然出会った怪しいオッサン(竹中直人)の経営するサーフショップで、なんとか住み込みでバイトできることに。サーファーのカッコよさにしびれた彼らは、この夏なんとかサーフィンをものにしようと奮闘する。
そこから先は、この手の青春リゾートムービーらしく、かわいいハーフの女の子(加藤ローサ)に出会って恋が始まったり、いやなアメリカ人のガキに邪魔されたり、カッコイイお兄さん(坂口憲二)に良くしてもらったりと、高校生少年が憧れそうな出来事が次々と起こる。
基本的には、子供たち3人のサル芝居に竹中直人が加わって、テンションの異様に高い演技合戦が続く。だれもかれも、いかにもまじめな高校生男子が考えそうなキャラクターなのだが、妙に統一感があるので、そのうち慣れてくる。子供たちが、こういうひと夏の体験に憧れるというのはよく理解できる。ほとんど妄想一歩手前といった感じであり、その痛々しさがまた、私のような年代のものには、ほほえましく思える。(これを一般メディアでは、「みずみずしい感性」と表現したりする)
日本の気候だと、海水や空の色など、スクリーンに映すとどうしても灰色になりがちで、ハワイなんかを舞台にした映画に比べると不利なのだが、必死に撮影陣がカバーしようとしているのがわかる。ただ、それだけに色作りが少々不自然な印象も受ける。
しかし、こうしたたわいもない子供映画にも、時折目を見張るすばらしい役者が現れることがある。『キャッチ ア ウェーブ』も、その幸運に恵まれた一本だ。
主人公の三浦春馬も良いのだが、それ以上にヒロインの加藤ローサ、彼女がよかった。あんなに見た目も声もかわいらしいのに、大胆な水着になっても、よけいなオンナを感じさせない。こうしたさわやかなキャラクターを持つ女の子は、じつに珍しい。ハーフに外れなしとはよく言ったものだが、今後要注目の一人といえるだろう。
『キャッチ ア ウェーブ』は、いかにも子供の考えそうなストーリーを、周りの大人が必死になんとか映画の形にした、という作品だ。おそらく作っていた大人たちも、「本当にこんなんで受けるの?」と、不安だったはずである。
それに対しては、「引っ込み思案の男子高校生には受ける」といっておこう。おしゃれで行動的な高校生は、こんな映画には行かない。『キャッチ ア ウェーブ』は、街で女の子に声をかけられないような大人しい子たちに、夢を見させてくれる、そんなファンタジー映画である。