『V フォー・ヴェンデッタ』30点(100点満点中)
大多数の日本人には向かない、欧米向け映画
『V フォー・ヴェンデッタ』は、『マトリックス』シリーズの監督ウォシャウスキー兄弟が脚本を担当した、ダークなサスペンス映画だ。原作のコミックは、82年に英国で発表されたが、この時期のイギリスといえば、マーガレット・サッチャー首相の在任真っ最中。よって本作は、その強硬保守的な政治姿勢を批判する、たぶんに政治的比喩を含んだ内容となっている。
舞台は近未来のイギリス。世界は荒廃し、かつての大国アメリカもいまは英国の植民地。そして、その英国は独裁者が支配するファシズム国家となっていた。ある夜、ヒロイン(ナタリー・ポートマン)は外出禁止時間帯に外を歩いていたところを、秘密警察に発見されてしまうが、Vと名乗る仮面の男(ヒューゴ・ウィーヴィング)に救われる。強靭な肉体と信念のもと、政府の転覆を狙う彼の行動に、やがて彼女も巻き込まれていく。
主人公のVは、自身のトレードマーク「V」がANARCHYマークを連想させることでわかるとおり、過激なアナーキスト(無政府主義者)だ。政府の施設を芸術的ともいえる手法で爆破し、為政者の秩序を破壊する。現在の世界では、いわゆるテロリストと呼ばれる存在である。
また、このキャラクターは、劇中で何度も引用されることでわかるように、現代版ガイ・フォークスという位置付けになっている。ガイ・フォークスとは、かつてカトリックが迫害されていた17世紀初頭、政府転覆を狙うべく、イングランドでおきた上院議場爆破未遂事件の、実在した実行犯。実行直前で逮捕され、激しい拷問のあと、残虐極まりない方法で処刑された男である。
英国では誰もがその名を知る存在で、毎年11月5日には「ガイ・フォークス・ナイト」といって、花火をあげたりする行事になっている。
映画はこのガイ・フォークスの生まれ変わり的存在であるVを、「マトリックス」シリーズでエージェントスミスを演じたヒューゴ・ウィーヴィングが演じるが、その正体はなかなか明らかにされない。相手役のナタリー・ポートマンは、スキンヘッドにも挑戦する熱演を見せる。
Vの活躍は、マトリックスを彷彿とさせるアクションシーンとして演出されるが、決してそれがメインではない、地味な作品(テーマ性の非常に強い作品)なので、そうした娯楽要素に期待するのは間違っていると言っておこう。
また、サッチャー政権による政治を実際に欧州で体験した者や、作中で引用される各種文学のもとネタ、あるいは、そもそもガイ・フォークスについてある程度の知識(日本人の一般レベルをはるかに超える)があるものでないと、この作品を十分楽しむことはできない。もしくは、原作のストーリーを担当したアラン・ムーアのファンなどだ。
よって、気楽に週末楽しめる映画を求めているごくフツーの人々には、この映画はまったくもって不適格といえる。ご自身が対象に含まれているかどうか、じっくり判断した上で、お出かけのほどを。