『ファイヤーウォール』80点(100点満点中)

短所がないということが長所

ネットバンクが普及し、一般預金者にとっても、オンライン上の数字を動かすことに抵抗がなくなってきた昨今、銀行のセキュリティも大きく変化している。昔は、どれだけ金庫室の壁を分厚くするか、頑丈なドアをつけるかといったハード面が重要で、映画の中の銀行やぶりも、どうやって金庫室に進入するかが大きな見せ場であった。

しかし、今は違う。コンピュータ上の数字イコール現金である現在、強盗も金庫室を破る必要はない。それよりは、ネットワークへの侵入、ハッキングをした方がよほど早くて確実だ。というわけで、銀行のセキュリティも、クラッカー(悪意ある不正侵入者)を防ぐ、ファイヤーウォール(不正進入防止ソフト)が重要になってくる。

この映画の主人公は、銀行のそうしたセキュリティソフトの開発担当者。演じるハリソン・フォードは、アメリカ映画におけるヒーローの代名詞的存在だが、インディ・ジョーンズやハン・ソロ(『スターウォーズ』)など、かつて演じたマッチョな肉体派ではなく、今回は頭脳で勝負するタイプだ。銀行員だから、肉体的には平凡なおじさんという点がポイントだ。

そんな彼は、仕事の上では成功者で、とてもいい家に住み、高級車で通勤している。私のような貧乏人は、アメリカのパワーエリートのこういう暮らし振りを眺めているだけで面白くて仕方がないが、そんな平穏な暮らしも突然の侵入者により終わりを告げる。

イギリスの個性派ポール・ベタニー(『マスター・アンド・コマンダー』の船医役など)率いるこの犯罪集団は、あっという間に幼い息子と年頃の娘、そして愛する妻を拘束する。そして主人公に、普段どおり出勤し、銀行の送金システムを操作し、指定の口座に高額預金者の預金を移動せよと命じるのだ。

最強のコンピュータシステムをやぶるために、一人もハッカーを使わないというアイデアが面白い。ハイテク技術に支えられたセキュリティシステムの中では、その責任者の人間こそが最大のボトルネック、ウィークポイントになるわけで、そこを暴力で抑えてしまえばシステムを乗っ取る事など造作もないというわけだ。まったくもって正論、説得力は抜群である。

かくして犯罪集団は、主人公の豪邸で家族を縛り上げ、のんびりビールを飲みながら、入金を待つのみというわけである。

ところが、そこは我らがハリソンフォード、そう簡単にワルどもの言いなりになるわけがない。連中のスキを狙って、なんとか外部に状況を知らせ、助けを呼ぼうとする。とはいえ、敵リーダーは非常に切れる男。はたして出し抜くことはできるのか。

敵のリーダー役ポール・ベタニーは、長身かつがっしりとした体つきで、肉体的にも頭脳的にも優れているという印象を観客に与える。この威圧感たるやたいしたもので、さすが若手の中ではピカ一の存在感を持つ役者だ。ハリソンは相変わらず、心優しき善人といった感じで、観客の共感を一手に集めるのがうまい。まさに天性のキャラクターであろう。金持ちで穏やかで、家族思い。これはもう、文句なしの主人公だ。わかりやすい善悪の対比により、観客を主人公側にぐいぐいと引っ張っていく。娯楽映画の作り方としては、一番まっとうな方法といえる。

伏線を適度に張り、忘れずにしっかり回収。荒唐無稽すぎないよう、展開には適度な抑制をきかせ、最後まで話の齟齬を感じさせない。じつに安定感のある脚本だ。『ファイヤーウォール』は、決して突出した要素があるわけではないが、役者の演技、脚本、音楽、アクション、そうした様々な構成要素のバランスが完璧で、とてもよくできている。見終わって20秒くらいでけろっと忘れてしまうような映画だが、こういう映画はそれでいい。週末のドライブのお供に最適な1本である。

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