『イーオン・フラックス』55点(100点満点中)

一見ティーン向けアクションに見えるが、その本質は……

つい先日、「スタンドアップ」に今週のオススメをつけた覚えがあるシャーリーズ・セロンの主演作が、続けて公開となる。この『イーオン・フラックス』は、彼女のキャリアの中ではめずらしいティーン向けSFアクションで、アメリカのMTVで放映されていた短編アニメーションを実写映画化したものだ。

西暦2011年、人類はウィルスによりその99%が死滅したが、2415年の現在、生存者は城塞都市ブレーニャに集まり、高度な科学技術により理想郷を築いていた。しかし、過剰な管理社会と頻発する謎の失踪事件に不信感を抱く反政府組織モニカンは、最精鋭のひとり、イーオン(S・セロン)に君主暗殺を命じるのだった。

アカデミー主演女優賞を獲得し、いくらでもお上品な映画を選べるはずのシャーリーズ・セロンが、なぜこんなお気楽娯楽映画に出るのか。一見奇妙ではあるが、何の事はない。よくよく中身をみれば、これはレジスタンスが政府と戦う、典型的な左翼政治映画。SFジャンルであるとはいえ、いかにも彼女が好みそうな内容なので、何の不思議もないのである。

内容は、そのシャーリーズが飛んではねるアクション映画で、たっぷりと彼女の美貌を楽しめるようになっている。Tバックでお尻丸出しの原作アニメにくらべれば、映画版のコスチュームの露出度は大幅に下がっているが、角張ったキャラクターデザインによるマッチョな原作のヒロイン像に比べたら、こちらの方がはるかに可愛いし、セクシーだ。(ちなみにあの独特の原作の絵柄は、原案の韓国系アニメーター、ピーター・チョンの特徴でもある)

シャーリーズ・セロンは、もともとバレリーナを目指していた人で、ひざの故障で断念してモデル→女優になった。そのため、映画のポスターをみてわかるとおり、180度の開脚もお手のもの。180cmクラスの長身女性で、これほど柔軟性が高く、しかも超がつく美人だから、スクリーン内の存在感も桁外れである。トレードマークの金髪を黒く染めているのが普段の彼女のファンにとっては残念だが、原作のアニメキャラが黒髪なので仕方がない。顔のつくりがかわいいから、こんなに短く切ったヘアスタイルも良く似合う。

彼女のアクションを見てもったいないと思うのは、この長身を生かした撮り方や動きがあまり見られない点。『イーオン・フラックス』のシャーリーズは、実際よりもコンパクトに見える。もっと優雅に、大きく撮ってあげたらいいのだが。手足が格段に長いのだから、標準サイズのアクション女優がやるような、スピーディーな格闘を無理してさせる必要はない。

ストーリーや世界観は、SFとしてはごく普通。原作の持つカルト色は消えている。だが、意図したものかどうかは不明ではあるが、この結末は、表面上の意味とはまったく正反対の解釈ができる。表面だけ見れば、くだらないとか、平凡だと見えるかもしれないが、登場人物たちの名前や全体のプロットに、政治映画としてなにか意味付けをしていると仮定すると、これは相当面白い。見終わった後ふとその点に気づいて、私はしばらく考え込んでしまった。この映画、意外にあなどれないかもしれない。



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