『燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY』75点(100点満点中)
生きる方向を失いつつあるサラリーマンに見てほしい
『燃ゆるとき』は、マルちゃんブランドで知られる食品会社の実話を元にした映画だ。80年代から90年代にかけて、まだ、アメリカ市場における数々の恐ろしいルールを知らなかった「うぶな」日本企業が、何度も煮え湯を飲まされながらも、果敢に立ち向かっていく熱血企業ドラマである。
主人公の営業マン(中井貴一)は、韓国の安い商品に押されつつあった米国のカップ麺工場の再生のため、カリフォルニアに派遣される。その工場は、黒人やヒスパニックなど、現地雇いの従業員を中心に稼動していたが、派遣早々、主人公は彼らをレイオフしなければならない厳しい現実にさらされる。日米の消費者の味覚の差や、セクハラなど社会環境の違いに悩まされながらも、彼は米国市場に戦いを挑んでゆく。
タイトルどおり、とても熱いサラリーマン映画だ。この映画を見ると、日本人であること、日本のサラリーマンである事を誇りに思うことができる。全編に、米国発新自由主義経済に対する批判のメッセージがこめられている。
ただし、この作品が賛美する日本企業のやり方は、かつて古きよき時代に培われた「家族的な会社」の持つそれである。知ってのとおり、今はそういうものはもう、だいぶ失われつつあるわけで、そういう意味では、この作品が批判するのは、2006年現在の日本社会なのかもしれない。本作を見ていると、進むべき道を誤るなよ、という先達からの主張が聞こえてくるかのようだ。
少々役者たちがオーバーアクト気味で、演出も昔ながらの泥臭いものがあるが、それすらも好ましい。人物描写やリアリティの面ではやや荒っぽいながらも、題材の面白さと描く信念の力強さでもって、最後まで一気に見せてくれる。大変好感が持てる作品だ。
この時代のオヤジさんたちは、巨人米国に対して、本気で勝とうとし、そして勝利を収めてきた。それも日本ならではのやり方で。高校生のうちから、デイトレで生計を立てようなどという、薄っぺらい発想をする者が増えてきた今の若者たちとは、骨の太さが違う。モノ作りに命をかける男たちというのは、この上なくかっこいい。かつて日本という国は、この分野で世界中から尊敬を集めていたのだ。
試写室では大人の男性が複数涙ぐんでいる様子が伺えた。いまどき中年男性が楽しめる映画というのは、そう多くはないから、『燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY』はぜひお見逃しなく、といいたいところだ。私も見終わった後、またサラリーマンをやりたくなった。