『最終兵器彼女』39点(100点満点中)

いったい誰を満足させるために作ったのか

高橋しんの人気漫画『最終兵器彼女』が映画化されると聞いて、私は最初、耳を疑った。「東映は、そこまで手を出すのか」というのが正直な感想であった。

というのもこの原作は、『新世紀エヴァンゲリオン』から連なる、いわゆるセカイ系(主人公の内面的な展開が、物語世界の運命と連動するタイプの作品)の作品群の中でも、とりわけ一般受けしそうにないものだったからだ。

高橋しんによる、いかにも一部のファンに受けそうな個性的な絵柄といい、魅力的だが説明不足も甚だしい世界観といい、どう考えてもこれを現在の邦画界が、一般向けに実写映画化することなど不可能だと、私には思えたのだった。話のスケールが大きくて、実写化にはそれなりの予算をつけねばならないだろうから、ごく少数のファン向けの作りにするわけにもいくまいし……はたして彼らがどんなトンデモ映画を出してくるのか、気になるままに試写の日を待った。

主人公は小樽の高校に通う、ごく平凡な男子高校生(窪塚俊介)。彼には付き合いたての彼女ちせ(前田亜季)がいる。不器用な二人は、互いの距離をなかなか縮められないまま、日々を過ごしている。そしてある日、突然札幌市街への大規模空爆が始まった。どこの国が、なんのために、日本と戦うのか。何の情報も知らされないまま、彼らは戦争に巻き込まれていく。

『最終兵器彼女』は、そのインパクト大なタイトル通り、愛する彼女が最終兵器になってしまうお話である。「なぜ?」「なんでただの女子高生であるちせが兵器に?」「どんなテクノロジーなんだ?」といった疑問に明確な答えが出されることはない。そもそも、日本がどこと戦争をやっているのかすら、ほとんどわからない。思わせぶりなヒントを手がかりに、自分で考えるほかはない。

そんな事を考えているうちに、読者は物語に引き込まれ、理不尽な障害(カノジョが自衛隊の最終兵器になってしまった)によって強調される、若者ならではのへたっぴな恋愛、繊細な心の動き、相手を思いやる心の美しさといったテーマに感動するというわけだ。

どうだろう、相当乱暴な原作の説明ではあるのだが、上記を読んだだけでもたいていの方は、こりゃ実写じゃだめだ、と思うのではないだろうか。

とはいえ、気を取り直していよいよ映画版の出来について書くわけだが、結果としては、やはり原作未読の人は完全におことわり、といった内容であった。しかし、最初から原作ファンのみにターゲットを絞った、マニアックなつくりになっているというわけでは決してない。一般人も取り込もうとしているが、ハズしている、というのが正しい。

万が一これを原作を知らぬものが見たら、「設定がわけわからん」とか「ちゃちな恋愛ドラマ」といった感想を抱かれ、1日で忘れ去られておしまいであろう。本音を言わせてもらえば、どうせこの映画にはコアなファンしかこないのだから、思い切りディープに作ったらよかったのだ。これでは、あまりにわかりやすすぎる。そのくせ設定は原作と同じ、さすがに実写でこの設定はかなり引く。ほとんどの人はついてこれない。

ただし、個人的にひそかに期待していた札幌空爆のシーンは、期待を裏切らぬ出来栄えで、たいへん見ごたえがあった。原作で初めてあのシーンを読んだときの驚き、そして混乱を思い出した。この場面に限らず、VFXのたぐいはよく出来ている。最終兵器ちせのデザインや動きにも違和感はなく、独特の不気味な空気が表現できていた。ただ、駆け足展開なので、徐々にちせが侵されていく恐怖感の演出はイマイチであったが。

その他戦闘シーンも、爆発や煙がアニメっぽい部分はあるものの、おおむね合格点。ちなみに、クレジットには出ていないし、関係者も回答を不自然にぼかしていたが、おそらく自衛隊が協力したのではないかと思わせるシーンもいくつか見受けられた(裏はまったく取ってません、あくまで主観)。

問題は役者。窪塚俊介にしろ、前田亜季にしろ、戦時中の命がけの様子がまったく伝わってこない。そして、演技力うんぬんの前に、この役にすべてをかけるという意気込みが薄く感じられる。

ちせ役は、前田亜季に決定した時点で、終盤の激しいセックスシーンがNGになってしまったわけだが(まあそれでもそのシーンをカットせず、一応やってるのは評価するが)、そこまでしてキャスティングするだけの必要性があったのかといえば疑問だ。顔つきも雰囲気も微妙に違う。もうちょい子供っぽい顔をしていて、純粋無垢なイメージの子はいなかったものかと思う。

結論として、映画版『最終兵器彼女』は、原作ファンがその出来を恐る恐る確かめに行くという、そのためだけの作品である。大ヒットする事はないだろうし、語り継がれるほどの個性、出来のよさ、あるいは駄作感があるわけでもない。特撮はなかなかのものだし、ストーリーも一応は「さいかの」だが、どうにも中途半端で、語りにくい作品なのである。やはりこの手の作品は、せいぜいアニメ化でとどめておく方が良いのかもしれない。



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