『単騎、千里を走る。』60点(100点満点中)

一種のファンタジーと割り切って楽しむべき

中国一の人気監督チャン・イーモウ(「HERO」ほか)が、小さいころから憧れていた俳優、高倉健を主演に迎えた念願の作品。それが『単騎、千里を走る。』だ。かつて中国で海外の映画が解禁されたとき、真っ先に高倉健の主演映画が公開され、大ヒットしたことから、中国における高倉健の知名度は抜群に高い。その当時は、チャン・イーモウと同様、彼に魅了された中国人映画ファンが多数いたのだ。

その高倉健演じる父は、病床の息子がやり残した仕事を完遂するべく、中国大陸に発つ。実は、息子とは長年の確執があり、対面もままならない状態で、その罪滅ぼしの気持ちも彼の中にあったのだ。とはいえ、中国語がわからず、道も一切わからない状態では、最初の人探しすらままならない。ところが、主人公の息子への愛情に感動した現地の中国人たちは、彼に無償の協力を申し出てくれた。

一言でいうと、日中友好親善ドラマである。登場人物は、それぞれの国民性の"長所"のみを備えたステレオタイプで、たとえば中国人キャラクターはおしなべて素朴な人柄で、おおらかで親切、そして陽気だ。対する日本人(の代表たる高倉健)は、寡黙で誠実、義理人情の筋を通すタイプ。映画は両者の良いところを、これでもかというほどストレートに描写し、過剰なまでの親切の交換を行い、一切のいざこざもなく大団円という話だ。

しかしながら、この映画が中国人を親切に描けば描くほど、また、日本人との友情を美しく描けば描くほど、現実はその逆なのだと観客は意識させられ、複雑な思いだ。何しろこの作品に出てくる中国人ときたら、刑務所の服役囚でさえ、そろって善人そのものなのだから、ほとんど冗談みたいなモンなのである。

まあ、それでも大陸の映画らしく、雄大な景色の中を移動するロードムービーとしての魅力はあるし、ファンタジーだと思えばリアリティのなさも気にはなるまい。要は、ロード・オブ・ザ・リングの一種だと思っていればよろしい。これは架空の国のおとぎばなし。

もしあなたが中国という国に対して特段の思いがなく、素直に感動ドラマを楽しめるタイプだとしたら、そこそこの満足を本作は与えてくれるだろう。泣きどころはしっかり押さえてあるし、プロの俳優ではない、一般の人びとによる素朴な演技、表情は心に響くものがある。

高倉健を村人総出で迎える食事のシーンなどは、その規模にもビックリするし、こんな風に友好的な関係を築けたら、どんなにか素晴らしいだろうと感動する。少なくとも、嫌日のくせに、なぜか日本のマネばかりする某インスパイヤー大国製の反日的な娯楽映画を見ているよりは、ずっと心穏やかでいられる。



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