『銀色の髪のアギト』30点(100点満点中)

現代的なテーマを織り込んだらよかったのに

日本のアニメーション作品が海外でも高い評価を受け、注目されているのは周知の通り。もっと具体的にいえば、それはスタジオジブリの作品であり、プロダクションIGのそれでもあるわけだが、この『銀色の髪のアギト』を製作したGONZOも、とくにデジタル分野の技術において定評がある。

そんな、いま注目の製作集団であるGONZOは、一般には連続ドラマ版『電車男』のオープニングアニメーションを作ったといえば通りが良いだろう。ちなみに私の好きな『GANTZ』のアニメ版も手がけている。そんな彼らがはじめて作った劇場用オリジナル長編アニメがこの『銀色の髪のアギト』だ。

舞台となるのは300年後の地球。そこは、人類による環境破壊が原因で、森の木々が人間を襲うようになった恐るべき世界。主人公の少年アギト(声:勝地涼)は、そんな森の泉の中で、300年間眠りつづけていたという少女トゥーラ(声:宮崎あおい)を発見する。変わり果てた地球の姿に愕然としながらも、アギトらと交流を深めていくトゥーラの前に、やがて同じく過去から目覚めたという男が現れる。

話も設定も同人ぽい、というか素人っぽい、いやむしろ子供っぽい作品だ。おまけにヒロインらの声も下手なので、なんとも力が抜ける。絵はきれいだし、動きもいいのだが、少々大人が見るにはキツそうだ。

また、これといったオリジナル要素が少ない点もいただけない。本来ファンタジーものの魅力とは、かつて見たことのない世界を見せてくれるという部分にあるのだが。恐らく『銀色の髪のアギト』は、もし製作国が某インスパイヤー大国であったならば、ある種の不名誉なお祭りになっていたのではないかと思われる。それほどわかりやすい、他作品からのアイデア借用が見られる。まあ個人的には、悪意でそうしたというよりは、メインアイデアを発展させていったら、思わず超メジャー作品に似てしまいました、という、妙なマヌケさを感じるのだが。

しかしまあ、製作者、関係者の皆様は、それでも悲観することはない。世の中には『風の谷のナウシカ』も、『未来少年コナン』も、『ドラゴンボール』も見た事がない人だっている。そうした人たちなら、この映画を誉めてくれるかも知れないではないか。

アギトがパワーアップしすぎて、どんどん人間じゃなくなっていっても、女の子をおんぶして駆け下りるシーンがどんなに笑いを誘うものでも、アギトがトゥーラちゃんを愛する理由が彼女の容姿以外に見受けられなくても、受け入れてくれる心の広いお客さんはいるものだ。

ただ、一つだけまじめな指摘をするなら、『銀色の髪のアギト』はせっかく、人間による遺伝子操作の失敗という、現実問題としてタイムリーな理由を森の暴走の理由として設定したのだから、それにNOというなりYESというなり、はっきりとした主張をこめるべきだった。

さらにいうなら、今このテーマをやるなら、遺伝子組み替え作物へのNO、これしか無いではないか。水面下にそうした主張を織り込んで、脚本を練り直したら、それなりに現代の映画として、きっと面白いものとなるに違いない。



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