『輪廻』80点(100点満点中)

抜群に怖い、"本物"のホラー映画

近年、ハリウッドで最も目覚しい活躍を見せた日本人監督といえば清水崇だ。彼は自身の代表作『呪怨』のリメイク『THE JUON』で、日本人監督として史上初の、全米興行ランキング第1位(しかも2週連続)という快挙を成し遂げたのだ。

そんな、勢いに乗る清水監督の最新作がこの『輪廻』。2004年の『感染』『予言』に続いて、日本の誇るホラー映画監督6人の競作レーベル「J-ホラーシアター」から発表された、本格派の恐怖映画だ。

35年前に、群馬県のホテルで起こった大量殺人事件の映画化を狙う映画監督(椎名桔平)は、そのヒロインに新人女優(優香)を抜擢する。やがてその事件の詳細を知るうち、彼女は奇妙な幻覚を見るようになる。そんな彼女の前に、前世が35年前の事件の被害者だと語る女性(松本まりか)が現れる。

『輪廻』は非常にすぐれたホラー映画だ。私は同日、偶然にも同じジャンルのアメリカ映画を見たが、比ぶるべくも無かった。無論、こちらが圧倒的に優れているという意味だ。とくに、恐怖演出の巧みさは、段違いであった。

過去の事件に残された謎など、観客を引き込む数々の興味深い設定、何気ない背景からも漂ってくる不気味なムード、途切れぬ緊張感、音楽、VFXの効果的な使い方……ホラー映画のツボを適切に押さえたつくりで、清水監督がいかに深くこのジャンルを研究しているかが良くわかる。

ハリウッドでの経験を生かしたか、万人向けの作品であることも、すすめやすい点だ。たとえば、物語よりも場面場面の怖さで勝負する『呪怨』シリーズに比べると、こちらは存在感のあるストーリー自体で楽しませてくれる。大きな仕掛けが施されていているにもかかわらず、まとまりも良い。前世だの輪廻だのといったネタは、一見使い古されているようだが、その先入観をうまく利用して、ひねりのある話を作った点がお見事だ。

舞台となるホテルのセット(特に外観)や、ヒロイン優香のすばらしい演技、不気味この上ない音楽など、誉めたい点はたくさんあるが、今回は清水監督の演出力を第一に評価したい。残酷極まりない惨劇を描きながら、一番血なまぐさい瞬間を写さないあたりも心憎い。

『輪廻』は、半端じゃなく怖い映画で、その恐怖度は相当なものだ。『呪怨』が点なら、こちらは線、すなわちストーリーの流れでもって、終盤に向けて恐怖を盛り上げていく、正統派の作品。なんともまぁ、一年の最初から、大変な作品がやってきたものである。

なお、これを見た東宝の試写室は、いつも上映時間までの間、作品のサントラを流しているのだが、本作のそれは前述したように異様なメロディであり、鑑賞までの間にずいぶんと気分を盛り上げてくれた。恐らく一般のお客さんが、映画館でこの映画の上映を待つ間の心境に、近いものがあったのではないかと想像する。

実はこの、一般のお客さんの心境で見るってのが(プレス試写では)案外難しいもので、私のように一般向けに批評を公開する人間にとっては、やっかいな点だったりする。その点今回は、その難所をすんなりクリヤーできたので、自信を持ってこの点数をつけることができる。事前に気持ちを盛り上げまくってから、ぜひご鑑賞あれ。とてつもない”怖さ”を味わえることうけあいだ。



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