『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』70点(100点満点中)

大人が見ても味わい深いアニメ作品

日本を代表する漫画家・手塚治虫が残した数々の傑作の中でも、一際異彩を放つ『ブラック・ジャック』。天才的な腕を持つ、ヤミ外科医の活躍を描いた人間ドラマであるこの作品は、現在テレビアニメとして、なんとゴールデンタイムに放映中、人気を博している。そしてその劇場版が、この『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』だ。BJと行動を共にする、マスコット的キャラ、ピノコを主人公にしたファンタジックな子供向け短編(8分)『Dr.ピノコの森の冒険』と同時上映となる。

『Dr.ピノコの森の冒険』は、BJに忘れ物を届けようとして森の中で迷ってしまったピノコちゃんが、怪我した動物たちを治療して回るという、ほのぼの系アニメ。数分間の作品ではあるが、実はこれを本編前に見ると、なかなか良い肩ならしになる。ピノコのハイテンションなキャラクターに慣れておくと、『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』の方も、のっけから違和感無く、世界に入り込んでみることが出来るというわけだ。無論、テレビアニメのファンの方には、そんな心配は無用だが。

『ふたりの黒い医者』は、製薬会社のビルに爆発テロが起きるショッキングな場面から始まる。そこで早速、ブラックジャックによるアクションの見せ場があるわけだが、このシークエンスの出来が良いおかげで、映画終了まで興味を失うことなく一気に見ることが出来る。

この事件の背後が明らかになるころ、ブラックジャックはある島において、宿命の相手、死神と呼ばれるドクターキリコと対決することになる。

ドクター・キリコは、原作漫画にも数回出てきたキャラクターで、死を望む患者を安楽死させるという、こちらも非合法な医師である。彼の存在がこの物語に深みを与え、観客は生と死について、大いに考えさせられるようになっている。

生物にとって死とは不可避、自然なるもの。それを先延ばししようとするなど、神に逆らう行為ではないのか。そう問うキリコに対し、ブラック・ジャックが悩むあたりは、なかなか面白い。しかし、たとえ自然の摂理に逆らってでも、彼は患者を救うのだ。そのひたむきさが、大きな感動を呼ぶ。

ブラック・ジャックを演じるのは、実力派声優の大塚明夫。本作の主人公ブラックジャックの、恐ろしいほどのカッコ良さを見れば、アニメーション作品にとって、いかに声優が重要であるか、誰もがわかるはずだ。近年、専門外の人が声をあてるケースが流行っているが、少なくとも主要なキャラクターは、彼のような"本物"の声優に演じてほしいものだ。

絵のタッチも、手塚治虫のそれに忠実で、好感が持てる。監督はテレビ版同様、実子の手塚眞だから、安心してみていられる。子供たちが見るから、血は最小限の表現ではあるが、これは些細なことなので気にはならない。

『ブラック・ジャック』は、かわいらしいサブキャラの印象から受ける子供アニメでは、決して終わっていない。大人が味わえる深みを持つ、立派なアニメ映画だ。エンドロールのあとにも1シーンあるので、最後まで席を立たずにお楽しみのほどを。

Black Jack―The best 11 stories by Osamu Tezuka (17)
手塚治虫の手による原作漫画です。この本の中には、さまざまな理由で当時単行本に載らなかった幻の作品も収められています。


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