『キング・コング』90点(100点満点中)

筋肉はT-レックスの牙よりも強し

『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の監督、ピーター・ジャクソンは、9歳のときにテレビで見た、『キング・コング』(1933)に衝撃を受け、映画監督を志したという。その情熱は、12歳のときにミニチュアを用意して、自らリメイクをはじめたほど。やがて彼は30年の時を経て、本作品を監督、ついに長年の夢を実現させたことになる。

この、ピーター・ジャクソン監督によるリメイク版『キング・コング』をみて、最も私が素晴らしいと感じる点は、まさにその、作品に対する愛情の深さにある。随所にキングコング、そしてオリジナル作品への思いの深さ、敬意が感じられるし、全身全霊をかけたと思わせるほどのパワーも感じられる。さすがは「33年のオリジナルが一番好きな映画」と公言しているだけのことはある。

舞台は1930年代、不況真っ只中のアメリカ。野心家の映画監督(ジャック・ブラック)は、未知なる島の伝説を聞き、そこで映画を撮るべく、主演女優(ナオミ・ワッツ)や脚本家(エイドリアン・ブロディ)を連れて、航海に出る。かくしてその島「スカル・アイランド(髑髏島)」に到着するが、そこには恐るべき巨大生物コングが、島の主として君臨していた。

原住民との遭遇、やがてヒロインがコングにさらわれ、乗組員らによる追跡劇……と、物語は進んでいく。島のジャングルはミニチュア合成で表現され、見たことも無い秘境を表現している。そして、巨大ゴリラ=キングコングは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでゴラムを演じたアンディ・サーキスの動きを元に、CGやロボットその他で作られている。

主演男優でもあるこのキングコングの造形が、見事の一語につきる。多くの感情を訴えかけてくる表情、恐竜や警察の飛行機との格闘時の動き、すべてが素晴らしい。作り物のはずのコングに、観客は大いに感情移入し、そしてヒロインと同じようにその姿を「美しい」と感じることが出来るだろう。

『キング・コング』の物語の核は、人間のヒロインとの愛、ラブストーリーであるから、コングがどれほど魅力的に見えるかは、何より重要な部分。その点はもう、満点をあげてよいと思う。コングとからむナオミ・ワッツほか、役者たちも非常に上手いから、ドラマとして見ごたえがある。

無論、スペクタクルシーンの数々も忘れちゃいけない。オリジナル同様、最新技術による特撮場面は、この映画に観客が期待する大きなポイントだ。具体的には、島でのコングの活躍、とくに恐竜との戦いなどはその最たるものといえる。

この場面、現代の最新の恐竜学から外れる設定を、監督はあえて採用した。この映画に出てくる恐竜は、教科書の中にいる古代生物ではなく、子供たちが恐れる、ファンタジー映画の中に生きるそれだ。そして、その方針は正しいと私は思う。

『キング・コング』は『ロード・オブ・ザ・リング』と同じく、テーマや物語の骨格に、現代にも通じる普遍性がある優れたファンタジー作品だから、こうした演出もまったく違和感無く、観客の中で消化されるはずだ。

ティラノサウルスと思しき狂暴な恐竜とコングの戦いなど、それはもう、たいした迫力だ。子供たちがこのシーンをみたら、監督の「本作をみて、私のように映画作りを志す子供が出てきたら最高だ」という願いは、間違い無く実現するだろう。

もちろん、ニューヨークにコングが連れられていってからの、悲劇的な戦いの場面も、完璧としか言いようの無い見事なもの。こうした重要な見せ場に比べれば、その他のアクションシーンには、ちょっとCGから人物が浮き上がって見えるなどの不具合があるが、満足度を低めるほどのものではない。

とにかく、P・ジャクソン版『キング・コング』は、今年度最高の作品群に間違い無く入る傑作といえる。今年、最後にこれほどの映画を見られたことを、私は大変うれしく思う。年末休みには『ハリー・ポッター』でも見に行くべかな〜、と思っていた私だが、予定は変更。これをもう一度見ることにする。

上映時間はなんと3時間6分。試写会でも途中でトイレに立つ人が続出していたが、1分とて見逃していい場面はない。万全を期して、皆さんも挑んでほしい。これこそ2006年お正月映画の中で、ダントツのベスト1ですぞ。



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