『男たちの大和 YAMATO』75点(100点満点中)

思想色は薄い、感動の戦争ドラマ

2005年は戦後60周年ということで、『ローレライ』『亡国のイージス』『戦国自衛隊1549』といった、軍事大作の公開が続いた。しかし、大東亜戦争(太平洋戦争)を真っ向から描いた戦争大作は、今年最後を締めくくるこの『男たちの大和 YAMATO』だけだ。製作発表時から、大いに期待されてきたこの作品の出来は、いったいどうなのか。

戦艦大和の生き残りを父に持つヒロイン(鈴木京香)は、父の生き様を知るため、漁船を借りて大和の沈没地点に向かう。そしてその道すがら、父の同僚だった船長から、大和の沖縄水上特攻作戦の真実を聞かされる。

さて、沖縄水上特攻作戦とは、史上最強かつ最大だった戦艦大和最後の作戦の事だ。当時の日本は、すでに敗色が濃厚。だが、本土たる沖縄を守るため、彼らは航空支援が無いにもかかわらず、上陸した米軍を艦砲射撃で殲滅するため、護衛艦隊と共に出撃した。しかし、400機近い圧倒的戦力の米軍機から猛烈な攻撃を受け、乗員2千数百名と共に、東シナ海の藻屑と消えたのだ。

『男たちの大和 YAMATO』の物語は、その作戦を中心に描いたものだが、焦点は乗組員とその家族、恋人たちに当てられている。つまり、「彼らは、どんな思いでこの作戦に挑んだのか」=「どんな思いで死地に挑んだのか」を丁寧に描いた人間ドラマである。よって、米軍側に対する描写は一切無い。米軍=悪という、単純な構図にならないあたり、いかにも日本らしい。

日本軍兵士を、血の通った人間として描いている点は評価に値しよう。騙されたのでも、洗脳されたのでもなく、明確な国家防衛の意思を持って、自ら戦いに挑んだ若者たちの姿が、否応無しに涙を誘う。

ただし、歴史にうるさい人、とくに保守派の人たちにとっては、いくつかの不満が残るだろう。つまりこの映画は、思想的にはかなり薄まった内容になっていると言うことだ。なにしろ邦画としては最大級の、30億円をかけた超大作だから、余計な商売上のリスクは犯せないといったところか。その分、万人向けの、ベーシックな戦争ドラマになっているわけだが。

具体的には、まず、靖国神社という単語が一切出てこない。そして、この作戦の発案過程の描き方が、かなり強引である。これでは、途中で迎撃されるのが確実なのに、天皇陛下がやれと言ったから仕方なくやった、というような印象を受けてしまう。実際のところは、呉でじっとしていてもやられるのだから、不利を承知で出撃した、という側面もあったはずなのだが。

また、これは特攻作戦全般に言えることだが、日本人は死んでも抵抗するのだ、という姿を見せておかなければ、民族単位で叩き潰されてしまうから、やむなくあんな悲壮な作戦が実行されたのだ。当時の国際情勢、とくにアメリカという国は、それほど容赦無い相手だったと言うことだ。映画の中で長嶋一茂が「この国は、一度負けないと立ち直れない」というような事を言っていたが、それと同時に、上記のような事も主張してほしいところだった。

映画の見所は、やはり6億円をかけた大和のセット、そして戦闘シーンということになるだろう。セットについては文句なしの素晴らしい出来映えだが、いかんせんそこで予算がつきたか、劇中の世界には奥行きが無い。

まるで、この世には大和一隻しか存在しないような、そんな映画になっている。僚艦の存在もまるで感じられないし、言ってみれば6億のセットを舞台にした演劇みたいなものだ。

これは、大和の全景をほとんど描写していない点に原因がある。戦闘シーンにおいても、カメラは常に甲板のどこかにあり、甲板上ばかりを写している。大和を離れ、空中からの構図や海上からの構図を頻繁にはさんでいけば、もっとスケール感のある、良いシークエンスが出来あがったはずなのだが。しかし、CGで描くのが大変だったのか、そうしたショットは少なく、非常に残念だ。

ただし、肉片が飛び散り、火薬の匂いも伝わってくるかのような凄惨極まりない戦闘場面自体には、かなりの迫力、臨場感がある。仲間がバッタバッタと倒れても、決して一歩も引かずに戦うその姿に、私は強く胸を打たれた。ここまで追い詰められるまでに、どうにかならなかったものかと、その理不尽さにも腹が立った。

また、もうひとつ評価したいのは、久石譲による音楽で、これは彼の映画音楽の最高傑作じゃないかと思うほど良かった。

まとめとして、映画自体は、タイタニックと同じ構成だったり、随所に古臭さを感じさせるなど、センスの悪いものではある。ただし、「当時、命がけで日本を守ろうとした男たちがいた」というテーマを現在に伝えるという、大きな目的はしっかりと遂げている。

少なくとも、冒頭にあげた軍事もの大作の中では、ダントツに見るべき価値のある作品といえる。私自身、ほかの映画は2度見る気はしないが、この『男たちの大和 YAMATO』だけは、公開されたら自腹でもう一度観に行くつもりだ。批評する目で観るのではなく、純粋に味わい、楽しむために。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.