『ダーク・ウォーター』40点(100点満点中)

ホラー映画としての怖さは日本版に劣るが、そもそもコンセプトが違う

ジャパニーズホラー『仄暗い水の底から』のハリウッド版リメイク。監督は『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス。日本版で黒木瞳が演じたシングルマザーのヒロインは、日本でも人気のあるジェニファー・コネリー(『レクイエム・フォー・ドリーム』ほか)が演じている。

離婚調停中のヒロイン(J・コネリー)は、5歳の娘の親権を得るため、二人で暮らす部屋を探していた。やがて二人は、ニューヨークのある島の片隅にアパートを見つける。少々不気味で古い部屋ではあったが、急いでいたこともあって彼女は賃貸契約を結んだ。ところが、暮らしはじめた途端、部屋の天井に不気味な染みが現れ、水道からは黒い水が出てくるなど、気味の悪い出来事が相次いで起こりだす。

『仄暗い水の底から』の原作は、『リング』で知られる鈴木光司による短編小説だが、ハリウッド版のストーリー展開は、日本の映画版の方に忠実だ。話の舞台となるアパート(というか団地)の不気味な雰囲気や、管理人など脇のキャラクターも、比較的映画版に類似している。

しかし、似ていない面も多々ある。たとえばヒロインの性格、これは日米で大きく異なる。黒木瞳の方は、見るからに優柔不断で気が弱い性格で、離婚調停になったら、(命より大事な娘の親権を)父親方の敏腕弁護士にあっさり奪い取られてしまいそうな、危なっかしい雰囲気があった。外見上の役作りもうまく、リアリティの感じられるキャラクターだった。そして、この性格設定が最も大事な場面、ラストのエレベーターでの、一見理不尽な決断にも説得力を持たせていた。

しかし、ジェニファー・コネリーは見た目も性格もいかにもアメリカ的、フェミニストが喜びそうな"強い女"だ。このため、終盤の展開にもやや変更が加えられており、観客の受ける印象も日米で大きく異なることになる。

ネタバレにならない程度に書けば、米国版は観客に強く家族愛の大切さを訴えるような、ちょいと押し付けがましい映画になっている。911テロ後の、ファミリー至上主義の流れに沿ったもの、と考えてもいい。ただし、個人的な感覚でいえば、これは映画版『仄暗い水の底から』の魅力とは、微妙にズレている気がしてならない。

『仄暗い水の底から』の魅力は、日本人の生活に密着した要素、たとえば集合住宅にすむ者の多くが不安に思いながらも、あえて無視しようとつとめている「屋上の貯水タンクの中身」や、深夜の薄暗い共用部分の怖さ、隣人への無関心などをうまく利用した恐怖演出の数々だ。一軒家にしか住んだ事のない人にはピンとこないかもしれないが、子供時代に見知らぬ団地の屋上へしょっちゅう忍び込んで、タンクの周りで遊んだ私のような人間にとっては、黒木瞳が深夜に貯水タンクに登る場面などは、心臓が止まるほど驚かされたものだ。

今回のリメイク版には、こうした「地域密着性」の怖さがない。というより、米国スタッフにはあの映画のどこが怖いのか、完全にはわからなかったのかもしれない。あるいは理解した上で、リメイク版には米国人にだけわかる怖さのエッセンスがちりばめてあるのかもしれない。まあ、いずれにせよこのページの文章と点数は日本語が母国語の方専用だから、この件についてこれ以上追求するのはやめておこう。

ただ、こういう(やや平凡な)家族愛ドラマにしてしまうなら、何もこの原作でやらなくてもよかったのではないかとは思う。リメイク版からは、日本版の激コワホラーの面影は消え去ってしまった。これはホラーというより、ちょっと不気味な要素のある人間ドラマ、だ。

コンセプトが違うのだ、といえばその通りだが、オリジナルを気に入っていた私にとってはやや期待はずれとなってしまった。逆にいえば、オリジナルが合わなくても、米国版のコンセプトが肌に合えばいけるかもしれない。いずれにせよこの作品を見るなら、先に日本のオリジナルを見ておくことを、私としてはすすめたい。

仄暗い水の底から (送料無料)
ジャパニーズホラーの中で、単純に怖かった、驚いた場面がある映画というと、実は真っ先にこれが浮かぶんですよねぇ。単に残酷なだけじゃ気分が悪いだけだし、呪いを怖がる年齢でもない。黒木さんの初々しい演技や、細部に懲りまくった美術、CGの使い方がうまいなど、私にとっていくつも見所がある作品となるとやっぱりコレなんです。私は日本ホラーの中では結構気に入っています。荒削りですが、心に残る一本です。
Two As One
テレビCMで流れている、日本語のイメージソング(クリスタル・ケイ「涙があふれても」)が収録されているのがこのCDです。この曲の素敵なメロディのおかげで、とても興味を引かれる予告編になってますね。


連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.