『ブラザーズ・グリム』30点(100点満点中)

映像・演出はいいが、それだけでは

「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」といった作品で、カルト的人気を誇るテリー・ギリアム監督最新作。グリム童話の世界を、ギリアム監督らしい特徴的な美術で表現した映像美が見所。

舞台は19世紀のドイツ。ウィル(マット・デイモン)とジェイコブ(ヒース・レジャー)のグリム兄弟は、各地で魔物退治をして暮らしていたが、実は魔物は仲間が演じた八百長であった。やがてそれがバレ、将軍につかまってしまうが、意外にも将軍から、ある村での少女連続失踪事件の解明を命ぜられる。

難解というか奇妙というか、よくわからない作品が多いテリー・ギリアムは、その特異な才能に対する熱狂的なファンの多い個性派監督だ。そんな彼の数年振りの新作だから、本作は有名なグリム童話の世界を舞台にしたファンタジーとはいえ、「ハリーポッター」やら「チャーリーとチョコレート工場」なんかの健全なものとはまるで違う。『ブラザーズ・グリム』は、暗く、ドラマ性・娯楽性が薄く、万人向けでは決してない、特殊なダークファンタジーだ。

物語はオリジナルで、グリム兄弟が作家になる前の時期の話。人間の肌がいやになまっちろい、おどろおどろしい雰囲気の映像の中には、赤ずきんやヘンゼルとグレーテルなど、有名なお話のエッセンスが含まれる。展開は意外にわかりやすいが、特別盛り上がる点はない。話の筋だけ追っていたら、かなり退屈だと感じてしまうだろう。

ダークではあるが、役者はコミカルな演技を時折見せ、全体として重過ぎないように作ってある。あまりつながりが良くない伏線や、強引に納得するほかないキャラクター設定の奇妙さに目をつぶりつつ、観客は見ていくことになる。

結論として、『ブラザーズ・グリム』は監督の熱烈なファンが、久々の新作から何がしかを得ようと、必死になって鑑賞するタイプの映画だ。それ以外の普通の観客にとっては、積極的にすすめられる作品ではないし、まして娯楽性の高いファンタジーものを期待していったら、大怪我をすることになるだろう。



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