『機動戦士ZガンダムII 恋人たち』30点(100点満点中)

いくらなんでもぶった切りすぎ

今年2005年の5月に公開され、予想以上のヒットを飛ばした『機動戦士Zガンダム −星を継ぐ者−』に続く第二弾。テレビシリーズを再編集した上にいくつかの新カットを加え、画面と音響には様々なデジタル処理を施し、現代の観客が極力違和感なく見られるようになっている。

反地球連邦組織エゥーゴと、連邦軍内のエリート組織ティターンズの戦いは激化していた。主人公の少年、エゥーゴの戦士カミーユ(声:飛田展男)は、地球で物憂げな少女フォウ・ムラサメ(声:ゆかな)と出会い、惹かれ合う。しかし彼女は敵対するティターンズの強化人間だった。悲しい別れを経験した後に戻った宇宙で、彼は新型モビルスーツ、Zガンダムのパイロットとなるのだった。

いやはや、このパート2には参った。いくらなんでもこの編集はカットしすぎだ。流れをぶった切りすぎて、話がまったくつながってない。前作はまだよかったが、今回はひどい。

確かに『Zガンダム』におけるこの時期は、主人公の恋人やら新ガンダムの登場に加え、本筋である戦争も激化しており内容がもっとも厚いところ。まとめるのが難しいというのはわかる。しかし、このパート2はいわゆる「名セリフ」をひろい集めるのに固執しすぎだ。道筋をつけるというより、名場面ダイジェストのようになってしまっていて、脳内補完力をマックスにしないと、ストーリーを理解できない。これは、一度見た人であってもどうにもならないくらいだ。

『機動戦士ZガンダムII 恋人たち』には、せっかく主人公やたくさんのヒロインをめぐるドラマが盛りだくさんなのに、味わうひまがない。よく受験参考書に「90分でおさらい!古文必勝術」なんてタイトルの本があるが、まさに「90分でおさらい!Zガンダム中篇」だ。

今回は、モビルスーツの主役であるゼータガンダムがはじめて登場する。その他にはメタスやサイコガンダムといった主要なメカが活躍する。しかし、こちらもずいぶんと大忙しでおさらいしているわけだから、やっぱり味わうひまはない。

『機動戦士ZガンダムII 恋人たち』の中でもっとも重要なキャラクター、というよりZガンダムにおける最重要キャラクターでもあるフォウ・ムラサメもいよいよ登場する。登場したとたん退場してしまうのには唖然としたが。

そして、ファンの間で話題になっているとおり、彼女を演じる声優はオリジナルの島津冴子からゆかなへと謎の変更が行われている。同様にサラ・ザビアロフの声も水谷優子から池脇千鶴に変わっている。

フォウ・ムラサメは当時から群を抜く人気を誇ったキャラクターで、今でも特別な思い入れのあるファンは多い。超映画批評の抱えるブレーンの一人、某男子大学生などは、彼女のキスシーンで性に目覚めたとまで語っている。それはそれで問題なんじゃないかと思うが、ともあれこれほど多大な影響を青少年にもたらした、アニメ史上におけるエポックメーキングなキャラクターであった事だけはいえるのではないか。

そんな重要なキャラの声優を突然変更したところで、興行に好影響を与える話題作りになるはずもなく、まして作品のレベルが上がるわけもないので、これはきっと何か別の理由があるのだろう。予想通り、ファンの間では非難ごうごうといった感じだが、新声優の二人とも、無難に役をこなしているだけに、この問題はなんとも後味が悪い(池脇の『猫の恩返し』のハルちゃんそのものの声質には正直違和感を感じたが、こういう印象はあくまで個人的なものだろう)。

そんなわけで、『機動戦士ZガンダムII 恋人たち』は少々期待はずれな出来になってしまった。いまさら声優を戻すわけにもいかないし、ましてやズタズタの編集をやり直すことなどできるはずもない。これはもう、完結編となる来年3月公開予定のパート3で、軌道修正を期待するほかはない。



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