『ランド・オブ・ザ・デッド』75点(100点満点中)

幾多の類似品とは違う、これぞゾンビ映画のオリジナル

60〜70年代から始まるゾンビ映画の始祖ジョージ・A・ロメロ監督による最新作。幾多の粗悪な類似品とは明らかに一線を画す、これぞまさにオリジナル、本家本元によるゾンビ映画だ。

舞台は地上を生ける屍に支配されたアメリカ。生き残った人々は川に囲まれたわずかな地域をフェンスで囲み、ゾンビから身を守って生きている。しかしその“町”は一人の権力者(デニス・ホッパー)により支配され、人々は搾取され、貧しい暮らしを余儀なくされていた。主人公(サイモン・ベイカー)は、仲間とともに特殊な装甲車デッド・リコニング号で外の世界に繰り出し、ゾンビを蹴散らしながら廃墟の街に残った物資を収集してくる傭兵。そして彼の右腕チョロ(ジョン・レグイザモ)は、密かに上流階級への仲間入りを企んでいた。

のっけからゾンビとの激しい戦いの連続で見せる迫力のアクションホラーだ。局地戦ではその戦力差でゾンビを圧倒する人類は、完全に彼らをなめきっており、その戦いはもはや戦争というより虐殺の様相を呈している。ゾンビを“恐ろしい化け物”として描くだけでなく、本当に残酷で恐ろしいのは人間の方だというメッセージはこの監督特有のもので、『ランド・オブ・ザ・デッド』が他の単純なゾンビホラーとは違うのだと冒頭からわかるようになっている。

この監督は、自身のゾンビ映画で常にその時代のアメリカを比喩し、社会風刺することで知られており、その意味で本作も社会派ホラーということができる。実際、この映画の構図をおおまかに眺めてみれば、それが今の対テロ戦争で疲弊するアメリカの戦争政策と、国内の諸問題を簡潔に表現していることがすぐにわかる。

そして、そうした社会問題、しいては人間社会の業の深さを描きながら、単なるホラー映画としても抜群に面白いエンタテイメントを作ってしまう点に、ジョージ・A・ロメロが高い評価を受ける理由があるわけである。そして、新作『ランド・オブ・ザ・デッド』でもその腕は衰えていない。

ゾンビはのろのろと歩いてくるだけなのに、なぜこんなにも恐怖を与えられるのか。そこに、ゾンビを知り尽くした監督ならではの演出力が効いている。死体を咀嚼するゾンビたちのリアルな残酷描写が話題になっているが、そういう表面上の見栄えの問題など、どうでもいいやと感じさせるだけの演出技術、アイデアがこの映画にはある。

結果として、『ランド・オブ・ザ・デッド』はさすがは元祖と思わせる見ごたえあるホラー映画であった。よけいな事を考えず、ただの恐怖映画としてみても十分に楽しめるが、見るときは作り手がどんな現実社会の問題点を伝えたかったのか、ちょいと想像しながら見てみると、より深く楽しめるはずだ。ぜひご覧あれ。



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