超映画批評『亡国のイージス』45点(100点満点中)

せっかく本物を貸してもらったのだが、生かしきれなかった印象

福井晴敏の人気小説を海上自衛隊全面協力で映画化。「ローレライ」「戦国自衛隊1549」と、今年続々公開されている邦画軍事アクション大作のひとつだ。

あるとき、東京湾沖で訓練航海中のイージス艦が、某国工作員と副長(寺尾聰)ら裏切り者の自衛官との合同チームにのっとられてしまう。艦には沖縄米軍から盗み出した強力な化学兵器がつみこまれ、それを搭載したミサイルは東京各地に標準をあわせてある。日本政府に激震が走る中、犯人らの退避命令に背き、ただ一人艦内に残った先任伍長(真田広之)の孤独な戦いが始まった。

『亡国のイージス』の見所は、本物のイージス艦でのロケや、実物大に近いセットを組んで撮影した艦内での人間ドラマだ。各登場人物については、決して十分に内面描写を尽くしたとはいえないが、なんといっても役者がいいので見ごたえがある。膨大な小説を映画化したことによる人物描写の浅薄化を、よく補っているといえる。

ただし、原作を読んでいないものにとっては、誰が何の役職なのかすらさっぱりわからないだろう。途中で出てくる女工作員の存在意義も感じにくい。この点はやや不親切だ。

これは私のみならず、防衛政策に造詣が深いジャーナリストの西村幸祐氏も帰り道で同じ事をいっていたから、多くの方が同様に感じると思われる。これだけ登場人物が多いのだから、せめてテロップで場所と役職の説明くらい入れる配慮があってもよかった。……というより、こうした軍事もの映画ではそれ自体が緊迫感を高める演出にもなる。積極的にやるべきだった。

艦内での先任伍長の動きを中心に追っていくので、艦隊戦などの大掛かりなアクションはあまりないが、唯一別の護衛艦との艦上戦闘の場面は、CGを駆使した大きな見せ場になっている。しかし、ここに残念ながら期待したほどの迫力がないのは、基本的にアクションの見せ方が下手だからだ。

たとえば、技術的に難しかったからなのかはわからないが、主砲が敵弾頭を打ち落とす場面や、敵艦沈没というキモを一切描かずにすませてしまったのはいただけない。結果、ほぼ唯一の軍事アクションらしいこの場面の迫力は、なんだかテレビゲーム程度のレベルにとどまってしまった。なんとも残念至極だ。

この映画では本物のイージス艦を使っているのだから、誰が撮ったってそれなりに立派に見えるのは当たり前。しかし、同じ自衛隊全面協力の『戦国自衛隊1549』が色々と工夫して、製作費以上にスケール感を出しているのに比べ、こちらはその逆だ。あれと比べると、こうした軍事アクションの見せ場演出における監督の力量の差は一目瞭然だ。この事については、とくにラストシーン近くのある場面において決定的に露見する。あの東京湾におけるシーンのできの悪さは、それまで物語に没頭していた観客を一気にどっちらけさせる程の破壊力がある。

各台詞には、はっとさせるものがいくつかあるが、ストーリー全体としてはまだまだ不満が残る。あらすじから予想されるような、憂国的な内容、問題提起としてのテーマ性は相当薄味で、リアリティも少々難ありといったところだ。なんといっても反乱自衛官の目的や動機の説明が不充分だし、某国工作員についてはなおのこと、である。

これについては、日本の有事における法体制、または政治家や行政官たちの危機管理の薄さなどに警鐘を鳴らすような、骨太な主張を強くこめていたら現在のような中途半端な印象にはならなかったのではないかと想像する。しかし、映画化にあたっても北朝鮮の国名を名指しできなかったくらいだから、それは無理な相談というものか。

結論として、『亡国のイージス』は(悪くはないが)やや期待はずれの部類に入る。きっとVFXや軍事もの、アクションに強い監督を起用したらもっとよくなっただろう。また、この映画の政治的立ち位置のあいまいさはいかにも日本的といえなくもないが、できればもっと作り手の立場をハッキリさせた、見ごたえのある軍事娯楽作品を次は見てみたいものである。

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亡国のイージス 上 講談社文庫 ふ 59-2
原作本です。映画を見る前に読んだほうがいいかも……。


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