『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』65点(100点満点中)

子供向けジャンルを超えたレベルの高さ

青山剛昌原作の人気テレビアニメの映画版。劇場版も大人気で、本作は9本目にあたる。監督は前作「銀翼の奇術師」に引き続き山本泰一郎、脚本はこのシリーズをずっと受け持っている古内一成。

主人公の少年コナン(声:高山みなみ)と仲間たちは、豪華客船アフロディーテ号に招待され、大西洋を処女航海中。ところが船内で殺人事件が発生、ヘリで目暮警部率いる捜査チームが到着するが、惨劇はまだ始まったばかりだった。

ミステリファンの間で「吹雪の山荘」とか「絶海の孤島」と呼ばれるように、閉ざされた空間、一種の密室というシチュエーションはこのジャンルでは定番中の定番である。今回の劇場版コナン「水平線上の陰謀」も、基本的には外洋航海中の客船という密室内で展開される、非常にベーシックな本格推理ものだ。

序盤で犯人がお客の前に顔を出す展開は、コナンシリーズでは珍しいのでおやっと思うが、もちろんそれで謎解きの興味が薄れるような話になるわけはない。当然のこと用意されたどんでん返しにいたるまでも、魅力的なキャラクターによるドラマが繰り広げられ、あきさせない。

映画版ならではの魅力というと、実際の豪華客船をロケしたという客船内部のディテールにこだわった描写や、3DCGで描いた船の外観を、なめるように移動するカメラのダイナミックさ、といった点があげられよう。アニメ作品ながら海上保安庁が全面協力しているので、救助の場面のリアリティも相当なものだ。

ミステリとしてみたシナリオの方は、真相に相当強引な個所がある点と、登場した時点で誰が怪しいかわかってしまうという部分が少々マイナスだが、はっきりいって子供向けアニメ映画のレベルではない。大人が見て十分に楽しめる段階に達している。

私自身は以前から高山みなみの声、というかコナンが子供のふりをする時のあのわざとらしい演技が生理的に駄目なもんで、このシリーズ自体かなり苦手なのだが、そんな私が見ても相当楽しめたのだから、ファンの方ならなおのこと楽しんでくれるだろうと期待する。

細かい部分にまで張られた数々の伏線を終盤でうまいこと収束させ、感動まで与えてくれる。そんな名探偵コナンの最新作は単なるテレビアニメの映画版の域を越え、お金を払って見てもいいと感じるほどのミステリドラマになっている。なお、例によってエンドロールのあとにもう一幕あるから、途中で席を立たぬよう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.