『ローレライ』40点(100点満点中)

本格的な戦争ドラマを期待しないように

人気作家の福井晴敏(「亡国のイージス」ほか)による原作(「終戦のローレライ」)をもとに、平成ガメラシリーズで知られる特撮のスペシャリスト樋口真嗣監督が作り上げた潜水艦アクション大作。

第二次世界大戦末期、米軍による空襲は日本本土に及び、ついに原子爆弾が広島、長崎に投下される。主人公の艦長(役所広司)と若き乗組員(妻夫木聡)らは、首都東京へ向けた3発目の原爆投下を阻止するため、ドイツ軍から接収した最新型潜水艦「伊507」で敵陣に突入する。

さて、上記「ローレライ」のあらすじを読んで、「邦画界久々の骨太な戦争フィクションか?」と思ってしまう方もいくらかはいよう。しかし、本作は一言でいえば「アニメ風味の実写映画」であるから、普通の大人の皆様にはすすめにくいとまずは言っておこう。

映画に詳しい人なら、スタッフをみるとそれは理解できる。たとえば、作中のB29のマークデザインは押井守(「イノセンス」監督)、ヒロインの服のデザインは出渕裕(ガンダムやパトレイバーシリーズのメカニックデザイン等)、そして画コンテ協力には庵野秀明(「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズ監督)と、アニメ界の重鎮たちが顔をみせる。自らアニメ作品を多数手がけてきた樋口真嗣監督が、『ローレライ』をどんな実写作品にしたかったのか、ある程度想像がつきそうだ。

この、アニメが半分混じったような奇妙な戦争映画は新鮮ではあるが、かといって成功しているともいいがたい。むしろ、リアリティの希薄さが「戦争アクション」というジャンルにおいては、大きなマイナスになっている。

たとえば、初めてみるはずの敵の新型爆雷の性能を、現場を数年離れていた艦長がなぜか正確に把握していたり、ドイツ製のはずの潜水艦を未熟な日本人クルーたちが手足のように扱っていたりする。

クライマックスで殉職する、あるクルーのエピソードもひどい。あのシーンで観客を泣かそうということなのだろうが、いくらなんでもあんな展開はない。あれではあの水兵はただのバカではないか。どうしてああいう事を平気でやってしまうのか、私は不思議でしょうがない。

基本的に伊507号の乗組員らは、まったく当時の軍人には見えないので鑑賞時は脳内補完が必要だ。もちろん、役所広司をはじめとする幾人かの実力派俳優は別。それ以外の、主に若いキャストの役作りには期待しないほうがいいという意味だ。

また、この潜水艦最大の武器である“ある秘密兵器”の鍵となるヒロインが着ている服など、萌え萌えなアニメのオンナノコキャラそのもの。オタク的な趣味性が強すぎて、どうにも違和感を拭い切れない。他のクルーたちは、少なくとも帝国海軍の軍服を着ているが、この人だけは20世紀のジャパニメーションの世界から抜け出してきたようなルックスなので浮き上がっている。まあこれは所詮“アニメ風味の実写映画”なのだから、そういう文句は言うだけ野暮というものか。しかしもう少しだけ、調和を取ってほしかった。

きりがないのでこの辺にするが、アニメだろうが実写だろうが、実際の歴史を舞台にするフィクションを作るときは、やはり多くの嘘をついてはいけない。

『ローレライ』でいえば、物語上もっとも重要な設定である「潜水艦の秘密兵器がヒロインの超能力で動く」という部分までは許せる。だが、それ以外の兵器や兵士、言葉遣いなどの時代考証までいいかげんな描写をしてしまったら「ただのマンガ」だ。むしろ周辺要素、細部のリアリティについては、普通の戦争映画以上に気を使ってこそ、全体のバランスが取れるというものだ。

そんなわけで『ローレライ』は、アニメ好き以外の大人が満足できる作品とは言いがたいが、主演の役所広司らの見事な演技と、愛国心を刺激する勇ましいストーリー展開、戦闘シーンの迫力などはほめてあげたい。

 
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