『セルラー』85点(100点満点中)

年間ベスト級に面白い豪腕サスペンス

キム・ベイシンガー主演の、アイデア抜群の設定をもつスリラー。これを考え出したのは電話ボックスだけを舞台に映画を成立させた「フォーン・ブース」の脚本家、ラリー・コーエンだ。この人は電話で話を作るのがうまいですなあ。

平穏に暮らしていたヒロインの教師(K・ベイシンガー)は、突如乱入してきた男たちに拉致され、そのまま監禁されてしまう。監禁部屋には粉々になった電話機が一台。彼女は持ち前の科学知識を生かして部品を組みなおし、なんとか修理に成功する。しかし意図した番号へダイヤルする事まではできない。やっとの思いで偶然つながった相手は、いかにも無責任そうなイマドキの若者のケータイだった。

ここから先は、文字通りノンストップで息づまるサスペンスが展開する。修理した電話機ではリダイヤルできない以上、この通話が切れてしまうことは、すなわちヒロインの命運が尽きることを意味する。しかも、よりにもよってつながった相手はビーチでナンパにいそしむ能天気な男の子で、まったくこちらの状況を理解してくれない。イタズラ電話と思って切ろうとする彼に、まずは信じてもらわなくてはならない!

そんなオープニングから、一気にラストシーンまでみせてしまう豪腕サスペンスだ。上映時間は95分間と短いが、これ以上この緊張感を保つのは観客も作り手も大変だろうからちょうどいい。

この監禁場所はいったいどこなのか? なぜ自分は拉致されたのか、犯人グループの正体はなんなのか、いったいどうやって通話一本で脱出すればよいというのか。観客もヒロイン同様、与えられた情報は非常に少なく、彼女とともに謎解きをしながら得体の知れぬ敵に対する恐怖を味わえる。

やがて彼女の最後の望みとなる若者を演じる役者(クリス・エヴァンス)もいい。徐々に状況を理解し、その後必死に最善をつくす姿には説得力がある。この名演で彼はきっとブレイクするに違いない。

この二人をとりまく登場人物すべてに魅力があるのも美点。最初に異変に気づく有能な警官には先週公開された「Uボート 最後の決断」の主人公として見事な演技をみせたウィリアム・H・メイシー、そして犯人役には人気上昇中のハゲアクションスターのジェイソン・ステイサム(「トランスポーター」の主人公など)。ほんのわずかな体さばきにさえ違いを感じさせる、本格的なアクションシーンが嬉しい。

正義側と悪側がハッキリ分かれている作品で、前者は人間味をたっぷりと感じさせる描写に手間を割き、後者はあえて役者の雰囲気にまかせるのみで深く突っ込む事を避けている。物語の進行上、観客には事件の真相に関わる情報の公開を制限しているので、このやり方は常道といえる。

男の子は携帯電話からの情報だけでどうやってヒロインにたどり着くのか、どうやって彼女を救い出せばいいのか、その過程に感心するほどたくさんのアイデア、見せ場をちりばめ、まったく飽きさせない。ドキドキワクワク、これほど楽しませてくれる映画はそうそうない。このサイトで年間ベスト10を選ぶとしたら、間違いなく入選決定だ。

深刻な設定ながら、コミカルな会話をはさみこんでいる点もいい。それがラストシーンに生きてくる。

展開の途中には、よく考えるといくつかの矛盾点というかヘンなトコもあるが、あまりに面白いので許せてしまう。疑問を持たせぬほどのリズム感のおかげ、というのもあるのだが。とはいえ、そうした細部が許せない御仁は注意が必要だ。

それにしてもお見事な作品である。これは絶対に見てもらいたい。年に数回しか映画を見ない、という方には特にすすめておきたい。カノジョや彼氏に紹介してあげたら、喜ばれること間違いないですぞ。

脚本家が共通の、超映画批評2004年度のサスペンス第1位ともいえる傑作がこちら
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