『THE JUON 呪怨』50点(100点満点中)

アメリカ人専用ではあるが

日本の幽霊のおどろおどろしさを重視した、清水崇監督のライフワーク的ホラーシリーズのハリウッドリメイク版。『THE JUON 呪怨』は主演がアメリカで大人気のサラ・ミシェル・ゲラー(「スクービー・ドゥー」シリーズほか)だったこともあり、見事米国で一位を獲得した。これは日本人監督の映画としては史上初の快挙。

日本の大学で福祉を学ぶ留学生(サラ・ミシェル・ゲラー)は、ある米国人一家の痴呆の母の介護をすることになった。訪れるとそこは古い日本的家屋で、呼びかけても返事がない。やむなく彼女は家の中に入っていくが……。

さて米国版『呪怨』だが、基本的には劇場版の『呪怨』をベースに、ビデオシリーズ版のエピソードを盛り込んだ集大成的な作品になっている。監督は清水崇で、撮影や美術監督も日本人スタッフ、しかも日本での撮影ということで、ハリウッド映画といっても見た目は日本映画そのものだ。白人の出演者が出ている点と、エンドロールが英語ってのが逆に不思議なくらいだ。

清水崇監督があくまで日本の“幽霊”にこだわったため、このような形になったというが、結果的にはこれが功を奏した。アメリカの観客にはジャパニーズ幽霊が新鮮で、よくウケた。あちらのホラー映画は悪魔ネタが主だから、そこには一応宗教的な論理、ルールがかろうじて存在するが、日本のホラー映画にはそれが通じない。まったく無関係な人間が、何の倫理的悪さをしていないのに、たたられた家に入っただけで「ケガレ」てしまい、殺される。この理不尽さが欧米の人を怖がらせたのだろう。

「スパイダーマン」シリーズの監督サム・ライミ(「死霊のはらわた」などマニアックな恐怖映画監督としても知られる)がオリジナル版を高く評価し、製作に名を連ねて後押ししてくれた事が大きいと思うが、全米一位の栄光はまさにコンセプトの勝利といったところ。

さて、それでは肝心の日本の観客にとって『THE JUON 呪怨』はどうなのか。

『呪怨』シリーズは、怖いエピソードが乗り物型お化け屋敷のごとく次々と現れるような構成で、ストーリーはとりあずおいておいて目の前のシークエンスをキャーキャー驚いてくださいといった映画だ。それでも物語はいつのまにか進行し、ラストにはそれなりにこの恐怖の理由付けが明らかになる。

呪怨のシリーズキャラクターである幽霊の伽椰子、俊雄役は日本版と同じ役者が演じている。伽椰子のカクカクとした動きや白目をむいた表情は相変わらずすごい。こりゃあ不気味だ。

しかし、正直なところ他のシリーズをみた人にとっては繰り返し以外の何でもない。何度も撮ってるから洗練されてきてはいるが、それだけのことだ。もうさすがにこれで怖がる人はいないのではないか?

……と私は思っていたが、実はそうでもないようである。というのもこの私は、もともと呪怨シリーズのどこが怖いんだかサッパリわからない人間なのだ。しかも、周辺の映画好きに聞いても同じ意見であるから始末が悪い。

仕方がないから今回は私、マスコミ試写ではなく一般の方々用の試写会のプレス席にて鑑賞させていただいた。呪怨が好きでハガキを出すファンの人たちと見れば、世間の反応が見れるというものだ。

結果はというと、『THE JUON 呪怨』はかなり反応がよかった。前半のショックシーンで観客はどよめき、驚いてしまった照れ隠しなのか、隣のお友達と苦笑しながら何かしゃべっている人たちがたくさんいた。

そんなわけで、アメリカナンバーワンになったこのリメイク版の呪怨、それなりに恐怖を与えてくれるといえそうだ。



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