『オペラ座の怪人』60点(100点満点中)

一人だけ歌の下手っぴな人が混じっている

作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーの最高傑作といわれるミュージカルを、彼自身が製作・作曲・脚本した映画化作品。

1919年のパリ。かつては栄華を誇ったオペラ座も今や廃墟同然。わずかに残った備品や装飾品のオークションが開催されている。やがてそこに、かつての惨劇の象徴たる豪華なシャンデリアが出品される。

シャンデリアの覆いが取り除かれると、物語は1870年当時のシーンに移行する。この場面はCGを駆使した映画らしいダイナミックな演出で、廃墟のオペラ座が一気にゴージャスな全盛期に戻る様子は圧巻だ。このシーンをはじめ、何度もかかるアンドリュー・ロイド=ウェバーの主題曲(最新アレンジ版)もノリがいい。

監督は、あまりに有名なこの舞台ミュージカルの映画化にあたって、雰囲気を壊さぬまま、できる限り映画らしいスペクタクルを盛り込もうとしたのか、劇場内をぐるぐる飛び回るカメラワークや、徹底的にゴージャスに仕立てた衣装、セットなど、見た目の派手さはかなりのものだ。

ただ、ミュージカルにとってもっとも肝心な音楽についていうと、主要なキャスト(すなわち歌う場面がある役者)の中で、怪人ファントム役ジェラード・バトラーの歌唱力だけが目立って劣っている。役柄の重要性を考えると、これはちょっと気になるところだ。

ストーリーについては説明するまでもないと思うが、映画版ではファントムの出生について語っている点がちょっとした新味だそうだ。特別この話に思い入れのない私などには、そのあたりの感覚はよくわからないのだが。

怪人メイクが綺麗すぎたのと、ジェラード・バトラーの歌声に関する違和感が大きな障害となって、怪人がヒロインに感じる純愛のせつなさ、かなわぬ恋の哀れといったテーマが弱い気がした。

このミュージカルの熱心なファンで、映画ならではのダイナミックな演出と完璧な舞台セットに興味のある人ならいいが、ごく一般の方は2時間23分という上映時間にちょいと退屈してしまうかもしれない。見に行く場合はせっかくのミュージカルの大作ということで、音響設備の整った劇場でどうぞ。



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