『スーパーサイズ・ミー』70点(100点満点中)

勝ったのは案外マクドナルド側か?

マクドナルドを朝昼晩30日間食べつづけるという人体実験ドキュメンタリー。普段はかわいいカノジョ(米国によくいる健康オタク)の自然食で暮らしているモーガン・スパーロック監督が、「マックのようなファストフードは本当に体に悪いのか」を証明するため、自らこの暴挙に出た。

監督は、この実験をするにあたり、入念な準備をした。医師やパーソナルトレーナーの指示を仰ぎ、変化を数値で表すために定期的に健康診断を行った。そして、「絶対残さない」「マックのメニュー以外食べてはだめ」「すべてのメニューをたべる」「スーパーサイズをすすめられたら断らない」などという、ばかばかしいルールを自分に課し、実験に挑むのである。

ちなみにスーパーサイズというのは米国ならではの巨大サイズのことで、頼むとバケツのような紙コップでコーラやら何やらが出てくる。ポテトも異常にデカいサイズの容器に入っている。

はたして30日間で彼の体はどう変化するのか?(そもそも完遂できるのか?) その外見、内面の変化をこの映画で記録しようというわけだ。このアイデアには100点をつけてあげたい。まさにコンセプトの勝利だ。

基本的には反権力、反大手企業といったスタンスなので、これはマクドナルドをはじめとした「乱れた食文化を広めた大企業」を批判するための映画と見てよい。『華氏911』のマイケル・ムーアもそうだが、エンターテイメント的ノリで社会問題を扱うというのはいかにもアメリカ的で面白い。

きっと『スーパーサイズ・ミー』は、他の日本の評論家たちにも絶賛で迎えられることだろう。ただ、確かに楽しい映画ではあるが、私としては期待していたほどでもなかった。まず、実験に思ったほどインパクトがない。色々見せ方を工夫してはいるが、これを見て「もうファストフードはやめよう」と思う方はさほどおるまい。監督の意図とは裏腹に、思ったよりは大丈夫そうだ、となる人の方が確実に多いと思われる。実際私も、映画館を出てまず思ったのは、「うまそうだった。マック食べに行きたいなぁ」というノーテンキな感想であった。

特に私などはいちトレーニーとして普段からイカれたボディビルダーたちの話をよく聞いているので、この程度の食生活実験を見ても「マッスル北村のビデオの方が凄いなぁ」などと思ってしまうのである(ちなみに彼は、スーパーサイズ以上のえらい量の冷凍のササミを生のまま毎日数回食べていた)。

だから、どうせならもっとムチャな演出効果を入れて、いかにマクドナルドが体に悪いかを強調し、最後は美人のガールフレンドが作った自然食を食べてお涙頂戴、くらいの茶番があっていいと思うのだ。まだまだこれじゃ、おとなしいってなもんだ。

また、致命的なのが途中で登場するビッグマック男(みればわかる)。この男の登場で、この映画のコンセプトが一気に色あせてしまうのだ。せっかく3日目あたりまではいい調子でいっていたのに、それを持続できなかったのは痛い。

とはいえ、最初の数分間は爆笑がとまらないし、天下のマクドナルドを名指しする根性も大したもの。しょせんは食べる人の自己管理の問題ではあるのだが、こうしたマイナス情報を世間に知らしめる事自体は大いに価値がある。私としては全面的に歓迎したい気持ちだ。

それにしてもマック側の反応は早い。スーパーサイズは早速廃止、メニューには生野菜サラダを登場させるなどしてむしろイメージアップをはかってしまうあたり、役者としては一枚も二枚も上だと感じさせる。



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