『レディ・ジョーカー』55点(100点満点中)

大作感たっぷりの重厚な一本

高村薫のベストセラーである社会派ミステリを映画化。原作は、お菓子に青酸を混入するといって企業を脅した「グリコ・森永事件」を発想のベースにしている事で知られる。

ビール業界トップの会社社長(長塚京三)が誘拐された。誘拐犯たちは自らをレディ・ジョーカーと名乗る5人組。大胆な要求を行う彼らだが、その正体は小さな薬局の店主(渡哲也)やトラック運転手、信用金庫職員ら、社会の片隅で生きる平凡な男たちだった。

レディ・ジョーカーとは、メンバーの一人の娘で重度の障害をもつ車椅子の少女につけられた愛称「レディ」からとっている。決して金目当ての悪党ではない、愛すべきこの誘拐集団の真の目的が何なのか、やがて明らかになって行く。

場面の切り替えに効果音を使ったり、重厚な背景音楽がよかったりと、非常に大作感のあるどっしりとした映画だ。女が出てこない、男ばかりのドラマという点も良い。役者の演技も文句なしで、こうした日本映画の現代劇を見るとわけもなくうれしくなる。

ストーリーは、さすがに評価の高い原作をもつだけに抜群に面白い。キャラクターも魅力的だ。ただ、映画ではかなりの部分が消化不良で、一気に見れるがどうも心に残らないという印象だ。

これは、ジョーカーの5人さえろくに描ききれていない点に原因がある。主人公の犯行理由、動機さえ十分に説明しているとはいいがたい。企業側や警察側のドラマはそこそこだが、それでも細部までは描ききれていない。映画ではもっとジョーカーたちの心理描写に焦点を絞ったほうが良かったのではないかと思える。

今回の原作は2時間の映画には少々重過ぎたが、このような優れたストーリーは日本にはまだたくさんある。本作くらいしっかりした役者陣と撮影スタッフで映画化していけば、必ずやいつか傑作が生まれるはず。『レディ・ジョーカー』はそんな予感を感じさせる一本だった。



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