『ハウルの動く城』40点(100点満点中)

こんなに違和感のある配役は通常ありえない

宮崎駿監督による3年ぶりの新作長編アニメーション。製作はおなじみのスタジオジブリ。魔法使いハウル役の声に木村拓哉が声優として挑戦。

帽子店で働く18歳の少女ソフィー(声:倍賞千恵子)は、魔女に呪いをかけられ90歳の老婆にされてしまう。家族に真実を打ち明けられぬまま家を飛び出したソフィーは、やがてハンサムな魔法使いハウル(声:木村拓哉)の城で、家政婦として住み込むことになる。

さて、いよいよ今年の大本命、宮崎アニメ最新作の登場だ。イギリスの児童文学作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『魔法使いハウルと火の悪魔』をもとに映画化した本作の舞台は、ヨーロッパの雰囲気をもった架空の町。そこでイケメンの若い魔法使いと90歳の老婆が恋をするという物語だ。

映画は魔法使いの城が動く場面で幕をあけるが、いかにもCGで描きました的なハウルの城のアップになんとなくイヤな予感がする。そして、ヒロインのソフィー(18歳バージョン)を倍賞千恵子が地の声で演じているのを聞くに至って、多くの方は深いため息をつくことになるだろう。寅さんじゃあるまいし、なぜ倍賞千恵子なのか私にはさっぱり理解できない。

宮崎監督が色々な理由で声優を好かないというのは聞いているが、いうまでもなく、この映画においてソフィーはもっとも重要な役柄である。その大事な少女時代に、ここまで違和感のある声を起用するというのはどういうことなのか。本作だけならまだしも、いわゆる“宮崎アニメ”には声が不自然な作品が多すぎる。キムタクが演じるハウルの方が案外まともなのでなんとか救われているが、毎回こうした傾向が続くと、見に行くほうはたまらない。

内容は、せっかく張った伏線や設定が不発だったり、反戦主張が絵柄にも物語にもそぐわなかったりと実にチグハグだ。見るからにバケモノ然とした連中がドカドカ空爆している絵をみせたあとに、「軍隊は悪だ」なんて事をキャラクターにしゃべらせているのを見ると、さすがに引いてしまう。あまりに露骨過ぎてエンタテイメントとしての爽快感をスポイルしている。

ラブストーリーの要素も、呪い前のソフィーをよく描いていないために恋する説得力が不足。反戦にしろラブロマンスにしろ、半端モノ同士をくっつけたようなストーリーはいまいち。

『ハウルの動く城』は、ジブリ作品らしい雰囲気とクォリティの高さは相変わらずだし、場面場面の面白さというものはあるのだが、その先に誉めたくなる部分がない。近年、宮崎作品の総合的な満足度は新作ごとにダウンしており、さびしい限りだ。「90歳女性と若者の恋」だなんて、今回はなかなか面白そうなテーマだと思っていたが、予想を裏切られたというのが率直な感想。それでもおそらく大ヒットするのであろうが、あまり期待せずに行ったほうが良いと思う。



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