『海猫』20点(100点満点中)

伊東美咲の裸という、最大の成立要素を失った時点で崩壊した

谷村志穂の原作を伊東美咲主演で『失楽園』の森田芳光が監督した純愛ストーリー。

舞台は1980年代の北海道。ロシア人ハーフのヒロイン(伊東美咲)は、昔気質の猟師(佐藤浩市)のもとへ嫁いだ。当初はぐいぐい引っ張っていく男らしさにひかれた彼女だったが、やがて夫が自分勝手な本性をあらわすに従い、常に優しい愛を注いでくれる夫の弟(仲村トオル)の方に心動かされて行く。

グラビアアイドルの伊東美咲は、本作での濡れ場を機会に本格派女優として脱皮するはずだった。劇中のセックスシーンの撮影では、実際に服を全部脱ぎ、全裸で果敢にチャレンジしたそうだ。……が、悲しいかな彼女は今、某会社のCMキャラクターであった。まじめな恋愛映画とはいえ、この時期オールヌードでハァハァあえぐのはよろしくないとの圧力がどうやらかかったらしい。結局『海猫』では、誰もが期待したヒロイン伊東美咲の裸はひとつ残らずカットされてしまった。

そして、いくつかあるHシーンは尺自体も短い上、同じような構図、カットが繰り返し使用され、それもスローにして時間を稼ぎ、顔のアップでごまかすという、苦肉の再編集がなされることになった。森田芳光監督にとっても痛恨の一撃だったことだろう。

さらに分析すると、乳首やお尻は一切写っていないものの、横から見ると確かに伊東美咲はそのスレンダーなボディを全部さらしている。横ムネくらいは私たち観客にも見えている。佐藤浩市のお手手でオッパイの中心部を隠してもらうようなカットは確かに確認できる。おそらく彼女が本気でヌードを見せる気だったことは間違いない。重ね重ね残念である。オトナの世界ってムズカシイ。

しかし、正直言って『海猫』から伊東美咲のヌードを引いたら何も残らない。ステロタイプの人物がありがちなストーリーを演じて、平凡なラストを迎えるだけの映画になってしまう。製作側としても最初からそれを大前提にしてストーリーやら構成やら宣伝計画やらを組み立てていたのだから、いまさら責めるのも気の毒なのだが。いいサビを思いついて曲を作ったら、完成後にサビを抜けといわれたようなものだ。そんなもの、どうにもならないではないか。

この映画の男優二人は伊東美咲という主演女優を引き立てるための存在。よってもともと物語上の華がないし、(演技の良し悪しにかかわらず)彼らだけでは『海猫』はそもそも成立しない。結果、話の後半では試写室の観客席から苦笑がもれるほど物語がガタガタになってしまった。

どうしてもサビ抜きの寿司が食べたいという酔狂な方や、セミヌードでも伊東美咲を見たいという方がいたらどうぞというほかないが、私なら現バージョンの『海猫』はお金を払ってまで見ることはないだろう。



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