『チューブ/TUBE』60点(100点満点中)

韓国人はリアリティという言葉を知らんのか?

韓国エンタテイメントの大ヒット作『シュリ』で脚本を担当した監督の初長編作品。地下鉄を舞台にしたスーパーアクション娯楽作だ。

空港での銃撃事件で刑事チャン(キム・ソックン)は、テロリストのリーダーが元国家機密諜報員のギテクだと視認する。チャンは、かつて彼に恋人を殺されたという過去があった。やがてギテクは地下鉄ハイジャック事件を起こし、チャンも現場に駆けつける。二人の因縁の対決が始まった。

どこからどうみても“やりすぎ”な韓国エンタテイメントがまたひとつ誕生した。イマドキこんなばかげたアクション映画は、この国以外では作れまい。そんな『TUBE』最大の特徴は、それぞれのアクションシーンに、リアリティがまったく存在しないという点だろう。

まず、劇中ではどうやら地球上の科学的な法則が一切無視されているので、主人公氏はどんな無茶な動きでも簡単にこなす。厚さ0.5mmのペラペラな鉄板で、殺傷力の強い9mm弾を止めてしまうという奇跡だって平気で起こせる。

そして本作のもう一人の主人公である、敵の凶悪テロリストもベラボーに強い。韓国SWATが何十人がかりでサブマシンガンの銃弾のシャワーを浴びせても、ただの一発さえかすりもしない。よほどSWATの腕が悪いのか、神業のような銃弾よけの技を持っているのか……。そして最新型の完全装備でやってきた警察の最精鋭たちは、彼一人にほぼ全員やられてしまう。化け物か君は。

おバカ映画というジャンルがあるが、あれはいわば“確信犯”でバカなことをやっているわけで、ひとつのジャンルとして確立している。ところがこの『TUBE/チューブ』からは、大まじめに作ったと思しきオーラがぷんぷん漂ってきてとても怖い。韓国にはこんな内容でも素直に楽しめる国民がたくさんいるのであろうか。

しかし、では『TUBE/チューブ』はつまらないのかというと、実はそうでもない。ストーリーもキャラクター造形もギャグ漫画並である事は間違いないが、演技もその他も似たようなものなので、妙にバランスが良いのである。マクドナルドの安いハンバーガーを、パンだけ高級なものに代えたらたぶん不味くなるのと同じで、これはこれで良い。

『TUBE/チューブ』は、ハリウッド映画のひな型を使って韓国人が作った安直なアクションパニック映画だが、それでも登場人物がアジア人の顔をしているだけでそこそこ新鮮だし、日本人から見ると突っ込みどころ満載で、なんだか子供がやってきた宿題を見ているような楽しさがある。うまく乗ることができれば、各所であきれながらも全体としては結構満足できるだろう。

モロわかりの早送りなどのアホ要素、相変わらずやたらと大げさな音響と音楽、休みなく出てくるアクションシーンなど、退屈することはまずない。この「味」が理解できる方なら、見て損はない。今週のダメダメといいつつ60点ということで、人によっては案外オススメなのである。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.