『2046』40点(100点満点中)

裏事情に振り回された哀れな作品

アジア映画の巨匠、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督が、アジア映画のスターを集結させて作ったSF+恋愛映画。SMAPの木村拓哉の海外映画進出作品としても話題になっている。

舞台は1967年の香港。主人公のフリーライター(トニー・レオン)はSF小説「2046」を書いている。彼は、アパートの隣人(チャン・ツィイー)や大家の娘の彼氏(木村拓哉)など、身近な人物をその小説の中に登場させるのだった。

『2046』の製作はトラブル続きで、何年経っても出来上がらないので「永遠に完成しない映画」と揶揄されていたが、先ごろのカンヌ映画祭でようやく日の目を見ることになった。……が、その後も大幅な編集作業と追加撮影が行われ、このたび公開されるバージョンはかなり違った印象になっているという。

というのも、カンヌバージョンは日本の関係者(主に出資者である某芸能事務所関係?)が驚くほど木村拓哉の扱いが小さかったらしい。そんなわけで公開版では、晴れてキムタクの出演シーンが大幅増加となったわけだ。

そんな不自然な事をやっていれば、映画全体のバランスが崩れるのは必然。私が見た公開版の『2046』は、本来大して重要ではない役柄であるはずの木村拓哉が不自然に前面に押し出された印象の、奇妙な映画であった。製作の裏側の権力関係が、これほど中身に反映されてしまう映画も珍しい。しかし、こいつはちょいとみっともない話ではないか? ちなみにキムタクの演技自体は良くも悪くもない。

この監督の映画は、もともとストーリーを楽しむタイプのものではない。本作も筋書きにリアリティはなく、また抑揚もない。ドラマ性より内面の主張を見出して監督に共感して楽しむタイプの、一般的には「難しい」と分類されがちな作品だ。ジャニーズのアイドルが海外の巨匠作品に出ているという話題性があるため、日本では多くの劇場で公開されるが、本来ならミニシアター単館で映画ファンに向けてひっそり公開されるような映画である。話題性だけで飛びついて、「???」といった表情で帰ってくる一般のお客さんが続出しなければ良いのだが。私としては、少なくとも木村拓哉目当てで「2046」を見に行くことはオススメしない。

『2046』は、「好きになった女」「過去に愛した女に似た女」「きっかけを与える女」「好かれる女」の4タイプの相手と主人公の恋愛物語だ。鳴りっぱなしの音楽と、時折挿入される近未来SFシーンで不思議なムードを演出しながら、恋愛の様々な姿というものを描いていく。独特の“雰囲気”を持つ作品だ。

キャストにはアジアを代表するスターの名前が並ぶ。ほとんどトニー・レオンだけを追いかける映画ではあるが、相手役のヒロインたちも各所ですばらしい演技を見せる。報われない恋の切なさを演じるチャン・ツィイーは、特に強く印象に残る。

『2046』は、徹底して個性的な恋愛映画を目指していれば、それなりに光るものを持った作品になれたはずだと思うが、この編集ではその魅力も薄い。かといって、一般の人々にオススメできるかといえば、それはまったく無理な相談だ。長年かけてようやく完成したものの、妙に歯切れが悪く、徹底したこだわりも感じられない、中途半端な作品になってしまった。



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