『アイ,ロボット』50点(100点満点中)
古典的な雰囲気ただようSFミステリ
アイザック・アシモフによるSF短編小説『われはロボット』をヒントに作られたオリジナルストーリーの映画化作品。人気黒人俳優ウィル・スミス主演、100億円超のビッグバジェットSFムービーという事もあり、アメリカでは大ヒットした。
舞台は2035年のシカゴ。いまや一家に一台、ロボティクス社の万能ロボットが普及しているが、ある日、同社の開発担当博士が急死する事件が起きる。ロボット嫌いの主人公刑事(W・スミス)は、同社の最新型ロボット“サニー”に疑いを向けるが、『ロボット三原則』を理由に相手にされず、やがてそのサニー型が一般発売されてしまう。
『ロボット三原則』というのは、アイザック・アシモフが自分の小説の中で提案した「ロボットが必ず守らなくてはならないルール」で、
- 人間に危害を加えてはならない
- 1に反しない限り人間の命令に服従しなければならない
- 1と2に反するおそれのない限り、自己を守らねばならない
という、ちょいとややこしいが、良く読めばなんとなく納得できるものだ。これは、ロボットが決して人間社会に危害を加えないようにする保険の役割を持っているわけで、『アイ,ロボット』の作品世界でも、すべてのロボットはこのルールをプログラムされている。人間を殺すなんて事はまず“ありえない”はずなのだが、さて真相は……というストーリーである。
あまりに性能が高くなってしまったサニー型。もはや人間と変わらないほどの知能、感情を持っているが、はたしてこの最新型ロボットは3原則を破ってしまったのか。もしそうだとしたら、なぜそんなことが可能だったのか。
ロボットやハイテクに依存して、まったくその悪意を疑うことのない人々の中、ただ一人ウィル・スミス刑事だけが“世間の常識”に惑わされずに真実へ突き進む。彼は若いのにハイテク嫌いの頑固者なので、ロボットなんて信用していないのである。ローテク万歳、自動操縦くそくらえ、ってなもんである。
そんな内容だから、外見はただのお気楽SF超大作にみえて、なかなか古典的なミステリ色の強い作品になっている。ロボット3原則にしても、SFジャンルではもはや古典的な香りのする要素であり、決してこの映画が新しい提案をしようとしているわけではないことがわかる。
よって、若者向きの作品に見えるが、オジサンたちが見ても案外すんなりこの映画を受け入れられるはずだ。もちろん、CGの出来は最新のハリウッド作品らしくすばらしいもので、数々のスペクタクルシーンは見ごたえたっぷり。単純にスカっとしたい娯楽作品ファンへのアピールも十分だ。
ただし、それはすなわち『アイ,ロボット』には新鮮味が無く、古い映画のリメイクのような印象すら受けるという意味でもある。ラストのどんでん返しだってかなりのものなのに、見終わってまったく印象に残らないのはどうしたものか。
むしろ、ウィル・スミスの着ていた革コートが良かったなぁ、とか、乗っていたバイク(バイクデザインの世界では天才と呼ばれるマッシモ・タンブリーニによる、MV Agusta F4 SPRという、実在する世界300台限定生産モデルだ)がかっこいいとか、はいてるコンバースの靴がいいといった、SFとも物語とも関係無い部分の印象ばかりが強いというのは寂しい。これは、この映画の未来世界のガジェットに真新しいものが無い事と背中合わせといえるのではないか。
そんなわけで、SFファンには少々物足りないかと思われるが、それ以外の一般ファンにとってはまあ、普通に見て普通に20分くらいで忘れ去ることの出来る気軽な一本といえる。大画面が自慢の劇場で楽しむ分には、レイトショー割引料金分くらいの満足は得られるだろう。