『マッハ!』90点(100点満点中)

アクション映画史に残るであろう強烈な個性の一本

タイの元スタントマン俳優トニー・ジャー主演のリアルアクション映画。今後の映画界を変える勢いを感じさせる、ものすごい一本である。

タイの田舎のある村の守り神“オンバク”像の首が何者かに持ち去られた。村の長老は像の奪回のため、村一番のムエタイの使い手である若者(トニー・ジャー)を送り出す。

「一つ、CGをつかいません!」「二つ、ワイヤーを使いません!」「三つ、スタントマンを使いません!」「四つ、早回しを使いません!」 という、時代に逆行した強烈なキャッチコピーによる予告編を初めてみたときは、「どうせチープでしょぼいおバカ系のC級アクション映画だろう」とたかをくくっていた。(公式サイトで見られる特報と予告編は爆笑もので必見だ)

ところがどっこい、映画が始まると、そこには観客の予想をはるかに超えた本物アクションの数々が。アクション映画としては、記憶に残っている限り最高レベルの衝撃を私は受けた。

長すぎる滞空時間、乗用車を飛び越えてしまうおそるべきトニー・ジャーの身体能力、顔面にモロに当てている格闘シーン、炎へ突入して実際に燃え上がる役者の下半身、どれもこれも開いた口がふさがらない。なにも本当にやればいいというものではないが、ここまで徹底して“本物”にこだわる姿勢には感服する。

また、『マッハ!』は撮影や演出といった裏方ががんばっており、トニー・ジャーの動きをよりダイナミックに見せるための工夫が随所に見られる。わずかな構図の違い、カメラのちょっとした動き、そして背後に流れるシンプルにビートを刻むだけの音楽……アクションシーンをどうみせれば良いのか、この製作者たちは完全に理解している。やられ役の俳優たちも、地味ながら巧い。アナログのアクションならではの迫力を、完璧に表現している見事な映画だ。

また、私が『マッハ!』で評価したいもう一つのポイントは、この映画が製作国であるタイらしさを、非常に強く打ち出しているところだ。ハリウッドや香港の流行に流されることなく、オリジナリティのあるやり方で、自分たちのもつ文化や町並みの特色を一本の映画の中で魅力的に紹介している。たとえばアクションシーンで使う車両は、タイに行けば誰でも見ることができる三輪タクシーのトゥクトゥクで、軽快なこの車を多数使って新鮮なカーチェイスを見せてくれる。こうしたやり方で作った映画で、世界市場に勝負をかける。こうした姿勢は大変好ましい。

『マッハ!』は、ストーリーが単純で、それこそ小学生から楽しめる大衆的な作品だから、映画の完成度を求めるような見方をしてはだめだ。この映画の魅力は、残酷さやいやらしさのない清々しい内容と、若き日のジャッキー・チェンを超えるかというほどのすさまじいリアルアクション、そしてタイ文化の魅力をたっぷり味わえる点にある。

『マッハ!』は間違いなく世界中の人々に受け入れられ、この日本でも高い評価を得ることだろう。私が見た完成披露試写会では、終映後に客席から拍手が舞い起こった。マスコミ試写にありがちな、関係者への祝儀代わりの義務的な拍手ではなく、「こういう映画を待っていた!」といわんばかりの大きく力強い拍手であった。私は、みなさんに強く『マッハ!』の鑑賞をおすすめする。私も今週末の公開をずっと待ち望んでいたし、もちろんもう一度大劇場へ自腹で見に行くつもりである。

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