『いかレスラー』5点(100点満点中)

安直そのものの業界の内輪ウケ

『アメリ』を大ヒットさせ、TVドラマのモデルにもなった名物バイヤー叶井俊太郎氏が企画したおバカ映画。イギリスのB級感動映画『えびボクサー』の大ヒットに気をよくした彼と仲間が、勢いで企画したという噂の話題作だ。

大手プロレス団体の王者決定戦のリングに、謎のいかレスラーが乱入、チャンピオンをボコボコにしてしまう。その正体は、不治の病により引退したと思われていたかつての人気レスラーだった。彼は長年の修行で肉体をイカに変化させたのだ。やがてリベンジマッチが開催されるが、そこに現れた元チャンピオンの肉体は、タコに変化していた……。

『えび』を見た人なら以上の説明でわかるとおり『いかレスラー』は、『えびボクサー』とは、そのコンセプトや内容において1%も共通点はない。タイトルだけあやかったおバカ映画である。よって、『えびボクサー』を気に入ったからという理由で見に行くと間違いなく沈没する、念のため。

いかレスラーもたこレスラーも、途中から出てくるしゃこボクサーも、みな安っぽい着ぐるみ製。低予算でエキストラを雇う余裕がないから、プロレスシーンの客席は真っ暗でまったく見えない。たとえるなら、TVのバラエティ番組のプロレスコント並みのチープさだ。

ストーリーも各ネーミングもパロディ満載、ナンセンスそのもの。巨大イカやタコに変化した男二人と人間のヒロインの恋愛三角関係まである。本作でレスラーを演じるのは実際のプロレスラーであるが、ヒロインとのHシーンの違和感はものすごいものがある。

『いかレスラー』は、全編思いつきのようなギャグが延々と続き、時折しょぼいレスリングシーンが入るという、どうしようもない映画だ。『えびボクサー』のヒットに味をしめただけの安直企画で、誉めるべき点はほとんどない。

むろん、こうしたジャンル自体がダメというわけではない。お馬鹿映画をやるにしても、もっと突き抜けた無茶をやるなり、『えびボクサー』よろしく“意外な感動”を仕掛けるなりすればまだ良かった。

ところが、思いついた企画をチョコチョコっと形にしただけのようなこの中途半端さはいかがなものか。チープであるとかナンセンスであるとかは、それだけでは何のマイナスでもない。狙ってやっていることなのだから、何がしかの効果をあげていればそれでよい。

しかし、本作はどうもそうした要素がわざとらしいというか、狙いすぎの感が強く、製作側のいやらしい計算が背後に見え隠れする。お馬鹿映画というものは、つくり手に可愛らしさ、憎めない茶目っ気があってこそ、支持したい気分になる。この映画にはそれが欠けている。

唯一オススメしたい見所は、オープニングに流れる主題歌『いかレスラーの歌』。主人公の岩田を演じるプロレスラー西村修の、恐ろしいほど下手っぴな歌声のインパクトはすごい。(公式サイトでも聞ける)



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