『デイ・アフター・トゥモロー』70点(100点満点中)
「米軍万歳映画」に飽きたらこの「弱者万歳映画」をどうぞ
地球に氷河期がやってくる大災害を描いたパニック映画。VFX満載で人間賛歌のテーマを描くという、この監督(ローランド・エメリッヒ)お得意の娯楽超大作だ。
洪水や竜巻が世界の街を襲うスペクタクルシーンは映画の前半に惜しげなく集中される。そのすべてに観客お目当ての特殊効果が使われており、さながらCG大会とでもいったところ。お客さんがお腹いっぱいになったあたりからは、主人公の高校生らのサバイバル劇となる。一方父親も息子を救くため、凍りついたアメリカ大陸をひたすら歩きつづける。果たして彼らの運命やいかに!
科学的な薀蓄を適当にちりばめ、それなりにリアリティを持たせたあとは、怒涛の見せ場で突っ走るというわかりやすい作り。後半は、すべての「物」を失った人々が「愛」だけを守ろうとする感動ドラマが演出されている。
それにしても、今回「人類の敵」となる「氷河期」は強敵だ。「ゴジラ」を倒したアメリカ軍でも、これにはさすがに手も足も出ない。被害は地球規模だから逃げ場もない。この物語がはたしてどのへんを落とし所にするのか、最後まで興味は尽きないだろう。
全体の構成は、見た人ならわかると思うが同監督の『インディペンデンス・デイ』(ID4)とほぼ同一。ただ、典型的「米軍万歳映画」であるあちらに対し、『デイ・アフター・トゥモロー』では黒人のホームレスや、高校生、女性、そして発展途上国といった弱者たちが活躍する。いわば「裏ID4」といった感じだ。
エアコンなどのハイテク機器が機能を停止し、100年前の暖炉が命綱となるあたりや、北半球の温暖な先進国が真っ先に壊滅し、南の途上国に避難せざるを得ない展開は、行き過ぎた文明社会への警告として描くこともできた。何よりこの大災害を引き起こしたのは、アメリカをはじめとする先進国による地球温暖化なのだから、フツーにこの手の映画を作ろうとすれば、彼らを非難する論調で描かれるはずだ。
ところが、さすがはこの監督だ。「弱者万歳映画」ではあるものの、「アメリカ批判映画」ではまったくないあたりがいかにも彼らしい。アメリカ政府への皮肉めいた印象はゼロであり、これなら共和党も安心というものだ。
また、この映画では久々に「洋画特有の、どう見ても日本とは思えない日本の町並み&人々」を見ることができる。こうしたノー天気な作風が彼の持ち味なのである。
『デイ・アフター・トゥモロー』は、その見た目も内容も、いかにもハリウッドの超大作エンターテイメントらしい映画だ。そうした作品を嫌いな人が見たら吐き気がするかもしれないし、そういう人には私もおすすめしない。だが、特にそういったこだわりのない人々が、普通にデートやファミリーで楽しむ娯楽としては適している。これからどんどん暑くなってくる季節だから、氷や雪に覆われたニューヨークの町を見ているだけで避暑効果もあるのではなかろうか。