『下妻物語』85点(100点満点中)

若々しいセンスでさわやかに描いた傑作青春映画

嶽本野ばら原作、深田恭子主演、茨城県下妻を舞台にしたコメディ友情ドラマ。「サッポロ黒ラベル」のCMで、スローモーションによる卓球シーンを演出した中島哲也監督の若々しい映像感覚は、本作でも存分に発揮されている。地方を舞台にした日本映画はどうも垢抜けないイメージに仕上がることが少なくないが、『下妻物語』にはそれが全くない。このセンスの良さにまず驚かされる。

主人公は、下妻に住みながらロリータファッションをこよなく愛する女の子。常磐線で片道3時間近くかけて、代官山に通いつめるという固い信念を持つ。しかし、あまりに周りとかけ離れた趣味(と性格)のため、友達は一人もいない。しかもそれをちっとも“嫌な事”と感じていないという、孤高のティーンエイジャーだ。フカキョンの魅力がいかんなく発揮された、まさにはまり役といえる。幼い顔立ちにロリータファッションがこの上なく似合っており、非常に可愛らしい。

彼女が、ひょんな事から地元のヤンキー娘と出会い、やがて真の友情を築いていくというのが大まかなストーリー。いかにもなヤンキー(レディース??)ファッションの彼女と、ロリータな深田恭子の見た目および性格のギャップが凄まじい。若い観客にとって、二人の価値観の違いをこれほど雄弁に表す要素はなかろう。このギャップが数々の笑いを生みだし、良くできたコメディとなっている。

“友情”だの“愛”だのには全く興味がないロリータギャルと、その正反対に、不必要なまでに“熱い”ヤンキー娘。いかにもティーンらしい不器用な二人が互いを理解するとき、そこには大きな感動が待っている。実にまっとうな青春映画である。

映像はさすがCM出身監督らしく抜群のセンスだし、とにかく“笑い”がよくできている。ヤンキー文化を笑い飛ばせる人にとっては、こんなにおかしな映画はあるまい。クライマックスにはちょっとしたアクションもあってサービス満点だ。

久々に現れた、邦画エンターテイメントの傑作『下妻物語』を、私は高く評価したい。これこそ、このページを信頼してくれる読者の方にずっと見てほしいと私が考えていた日本映画の形だ。女の子同士の友情を描いた感動の青春映画として、大いに笑い、泣き、楽しく鑑賞してもらえるだろうと私は信じている。



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