『ヘブン・アンド・アース』55点(100点満点中)

出来のいい戦闘シーンとお馬鹿な展開

中井貴一主演の中国映画。アクション満載の時代劇だ。ハリウッドが日本市場に目を向けて『ラスト・サムライ』を作ったように、アジア各国も日本人俳優を主演に据えて、日本でのヒットを狙うケースが最近増えているが、本作もその一本だ。『ラスト・サムライ』でのトム・クルーズ的役回りを、中井が演じる。とてもおいしい役で、彼のファンが見たら最高に幸せな映画だ。

最初は敵だった凄腕剣士が仲間になり、やがて厚き友情で困難な旅を続けるようになる。わかりやすい少年ジャンプ的ストーリーだ。情厚き仲間たちは、一人一人けれん味たっぷりの見せ場を作って死んでゆく。ここは深い突っ込みはせず、感動の涙を持って楽しむのが粋というものだ。中にはギャグにしか見えない死に方もあるが、恐らく作っている当人たちにそんな意識は無いだろう。そこが痛いといえば痛いが、見ている分には面白い。

旅の仲間たちには、中国で大人気のアイドル、ヴィッキー・チャオがお姫様として加わり、男性の観客の目を飽きさせない。彼女は現代的な顔立ちの女の子なので、どう考えてもこの時代劇にはミスキャストだが、入浴シーン戦装束のコスプレという、この映画を成立させるにあたって非常に重要な役割があるので、小さな違和感には目をつぶることが肝要だ。

旅の仲間たちの死に方や、女子大生風のお姫様以外、たとえばストーリー的にも、ありえないほどバカバカしい展開があるが、そこは苦笑しながら楽しむのが大人のやり方だ。

各シーンの出来はとてもよく、廃城を舞台にした戦闘場面などは、「ロード・オブ・ザ・リング」をちょっと彷彿とさせる迫力があり、満足させてくれる。だからこそ、突込みどころ満載な展開にたいしても腹が立たない。日本のロボットアニメ風の音楽も、ピッタリ合っていてとても良い。作曲はアニメファンにはおなじみの川井憲次だ。

個人的には気に入っている一本だが、話の齟齬を気にするようなタイプの方にはまったく向かないのでこの点数にした。ここまでのレビューを読んで、「いけそうだな」と感じた人ならば、きっと大丈夫だ。ぜひ劇場に出向いてほしいと思う。



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