『イン・マイ・スキン』40点(100点満点中)

難解な本作は、独自に解釈する楽しみを味わえる一本

自らの身体を傷つける自傷癖のある女性を描いたフランス映画。監督は、これが初長編となるマリナ・ドゥ・ヴァンで、小柄で気軽な雰囲気の若い女性である。劇中では主演もし、綺麗なヌードも見せてくれてる。すぐに血だらけになってしまうが。

彼女の話では、これは「自傷癖について描いた映画ではない」そうで、むしろ「心と身体の関係のミステリアスさを描きたかった」という。大事なのは、ヒロインが不本意な感情と戦う姿であるというわけだ。だから監督さんは、自傷癖についての専門書なども読んでいないという。

『イン・マイ・スキン』の特徴は、なんといっても直接的な自傷行為の描写につきるだろう。皮膚をはがし、ぐちゃぐちゃと歯でなめしと、とどまるところを知らぬエスカレートぶりである。

これらを正視する覚悟のない方は、悪いことは言わないからこの映画はよしておいたほうがよろしい。何しろ肉はぐちゃぐちゃ、美人が血だらけというとんでもない映像が、BGMなし、皮膚をちぎる音だけをバックに、延々と続くのだ。これはもう、普通に想像する自傷行為とはレベルが違う。自傷行為のチャンピオンである。これでも監督氏は、「観客に不快感を与えぬよう、セーブした」などとのたまっているのだからすごい。

さて、そんな『イン・マイ・スキン』だが、普通に見れば、何が言いたいのかさっぱりであろう。だからこそ、私が監督から直接聞いた解釈を冒頭に載せたわけだが、それでも「なぜアンタはそんな事を描きたいの?」と、脳内がハテナマークで埋め尽くされること確実である。

どうも監督は、過去に事故ったとき、このヒロインと同じ「心と身体の不同一性」を感じ取った経験があるらしい。それはあまりに大きな恐怖であり、そこから立ち直るまでの過程を描くことは、彼女にとっては大きな意味のある仕事だったのだ。

そんな感覚など経験したことのない私にとっては、これはまったく思いもよらない発想であった。恐らく、上記の感覚を体験したことのない人のほとんどは、この作品を理解することは困難だと思われる。というわけで、彼女に共感できる方や、美人が血まみれになっていく目に悪い映像を見たいという方のみ、ご覧になってほしい。

なお、私が行ったマスコミ試写において、1名の途中脱落者(若い女性)がいたことをここに記しておくとしよう。くれぐれも、満腹状態は禁物である。



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