『コール』50点(100点満点中)

たくさんの良質なアイデアや設定が生かされていない

新しい形の誘拐テクニックで完全犯罪をもくろむチームと、狙われた3人家族の戦いを描く本格サスペンス。さらわれる子供役はハリウッドの子役としてはたぶん一番ギャラ(と精神年齢)の高い、ダコタ・ファニングという美少女である。今回は、喘息をわずらう少女という難しい役柄を、まだまだ余裕たっぷりといった感のある、見事な演技力で演じている。

さて、誘拐犯たちの新しい手口とは、「親子3人まとめて誘拐・監禁する」というぶっ飛んだものである。これなら警察に通報のしようが無いというわけだ。しかも、3人とも別の場所に監禁し、それぞれの見張番が30分ごとに電話連絡をしなければ、あわれダコタちゃんがぶち殺されるというルールである。タイトルの「コール」とは、ここからきている。

このアイデアは面白いし、ラストの壮絶なアクションシーンなども、見るからにお金がかかっていて見ごたえがあるのだが、全体的にあまり良い出来とは言えないところがつらい。

おそらく多数の観客は、あれだけ見事な誘拐アイデアを考えた知的なはずの誘拐犯が、なぜあんなに手際が悪いのだろうと感じるはずだ。どうみても誘拐する側よりさらわれた側のほうが一枚上手に見える。これは興ざめする。

犯人側の真の目的というのも、それまでの彼らの行動と一貫しない点があり、納得しがたい。その「真の目的」ストーリーで行くのか、純粋に完璧犯罪を狙うストーリーで行くのか、どちらかはっきりさせてほしかったと思う。また、24時間でタイムリミットとする必然性も、あまり感じられない。

だからこの制限自体、物語に何がしかの効果を与えられていない。それ以前に、この誘拐事件に24時間のリミットは長すぎるとさえ感じる。さらにいえば、ダコタちゃんの喘息ネタも、ほとんど単発のエピソードのみで、本筋への伏線になってないのはもったいない。見ていて退屈はしないものの、いまいち平凡な印象をぬぐえないものがあった。



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