『サル』60点(100点満点中)

新薬アルバイトの実態とは?

新薬の投与実験アルバイト。都市伝説に近いこのアルバイトの話は、だれでも一度くらいは耳にしたことがあるだろう。この映画は、実際にそれを体験した事のある監督が、ドキュメントタッチで作ったホラーサスペンスである。

仲間同士でこのアルバイトに参加した映画好きが、隠しカメラでその一部始終を撮影、という設定である。だから、全編手持ちのデジタルカメラ撮影。臨場感のある作風となっている。

まあ、そのわりにはありえないカメラアングルが多々見られて興味をそぐが、これはもう、みなかったふりをするしかない。あまり細かいことを考えても仕方がない。そんなことより、題材の面白さだけで、ぐいぐいと引っ張っていく邦画というのは、いまどき貴重ではないか。個人的には、映画は監督名や役者ではなく、題材とストーリーで勝負してほしいと思っているので、私はこの作品を高く評価したい。

アングルはともかく、役者の演技や台詞は自然ですばらしい。芝居がかった部分が感じられず、たしかに本物のドキュメントっぽい雰囲気が出ている。また、人物がよく描けている点も美点である。出てくる人物たちに対して観客は、「いるいる、こういうヤツ」と感じられるだろう。

投薬実験のすべてを、最初から順に描く『サル』は、まるで、サウンドノベル形式のゲームをプレイしているかのような感覚で楽しめる映画である。飽きずに最後まで楽しめる面白さがある。

私は、結末はもっと別のものがよかったが、まあこの判断は皆さんにゆだねよう。

低予算の地味な娯楽映画であるが、この映画をレイトショーで見るのは、なかなか楽しいかもしれない。「たいした事なかったね」「でも面白かったね」といった感想をみなが持つであろう『サル』のような映画は、遅い時間帯に見るのに適した作品といえるのではないか。



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