『ヴァイブレータ』70点(100点満点中)

心に余韻を残す佳作

都市で暮らす孤独な拒食症の女性を主人公にしたドラマ。彼女が、コンビニで若いトラック運転手にナンパされ、その車で新潟まで向かうという話。

ナンパされていきなり見知らぬ男のトラックに乗る? その日のうちに後部座席でセックス? そのまま運送の仕事に付き合ってはるばる新潟までいく? ありえねえよ……と思うだろうか。

映画を見ると、まったくそんな風には感じない。そこに描かれる女性の心理、特に彼から与えられたある感情に対する喜びは、恐ろしいほど実感を伴って感じられる。私は原作小説は未読であるが、この映画には深く共感できた。

主演は「人間国宝の娘」寺島しのぶで、『ヴァイブレータ』の魅力は、彼女の演技力によるところが大きい。オールヌードで挑むセックスシーンを、臆することなく演じる姿は見事の一語に尽きる。

映画は、トラック運転手とヒロインの会話がほとんどで、車内を写すことが多いから撮影も制約が大きいが、それでも飽きさせることなく95分間を見せてくれる。トラックドライバーは、社会の裏側に通じているのでその話を聞かせ、ヒロインは拒食症について語る。とりとめのない会話を通じて、二人が心を通じ合わせていく過程が、興味深く描かれる。

袋小路に入っていた女性の人生が、一夜のナンパでちょっとだけ変わるという展開の最後には、とても切なく、感動的な結末が待っている。浜田真理子「あなたへ」の心に響くメロディが、エンドロールに流れる中、いろいろと考えさせられる。

とても気持ちのよい余韻を残してくれる佳作である。若い人、といっても30代の男女が見たら、深く共感できるに違いない。



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