『あたしンち』40点(100点満点中)

持ち味が死んでしまっており、大人の目から見るとイマイチ

読売新聞日曜版で隔週連載中の人気漫画を原作にした、TVアニメシリーズの映画化。視聴率も高く、家族で見れるアニメとしてお茶の間に人気がある。今回がはじめての劇場用作品となる。

95分間という、堂々の長編アニメとして作られた『あたしんち』だが、この手の季節ものアニメの常で、完成は公開直前にずれこみ、私もちょうど本日、試写会で鑑賞してきたところである。プレス資料と実際のストーリーが大幅に違うあたり、スケジュール的にさぞ大変だったんだろうなと窺わせる。

あらすじは、主人公である母と、娘のみかんの中身が入れ替わるというファンタジー的なもの。これがちょっとイマイチである。ちなみに私、このマンガに関しては、読売新聞での連載第一回からのリアルタイム読者である。しかもこの、あまりに面白かった記念すべき連載第一回を切り抜いて、周りの友人知人に広めたというほどであるから、『あたしンち』の魅力は知り尽くしている方だと思う。

そんな私の見解では、この作品の魅力は、一言でいえば「ああそれそれ、ウチと同じだわ〜」的な笑いである。だが、劇場版では最初から非現実的すぎる設定になっているので、持ち前の現実味のある笑いを打ち出していくことができないのだ。皮肉なことに、作品のもつ、最大の魅力を封じ込めた形になってしまっている。

母とみかんが入れ替わった後のさまざまなエピソードも、ちょいとありふれている。子供にとってはともかく、大人にとっては平凡過ぎるネタである。

できることなら『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』の劇場版のように、子供のみならず大人の根強いファンをつかみたいという製作陣の願いがあったことだろうが、今回はちょっと難しそうだ。親子愛をやたらと前面に出して泣かせようとする点にも、少々あざとさを感じる。

今後も劇場版を作るならば、少なくともTVシリーズ以上に「笑い」に力を入れるべきだ。今回はややすべり気味のネタが多かった。笑いさえうまく行けば、泣かせるのは簡単だ。子供アニメの劇場版を愛する大人のファンは意外に多い。彼らの目にかなうだけの高品質の作品を作れれば、『あたしンち』の未来も明るいというものだ。



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