『幸福の鐘』65点(100点満点中)
主人公が最後まで一言もしゃべらないドラマ
主人公が、さまざまな事件に出会いつつもただただ歩いてゆく、教訓的なお話のドラマ。今週は洋画の傑作がそろったので、この地味な邦画は目立ってこそいないが、なかなかよくできている作品である。
主人公には一切セリフが無いため、とてもシンプルな映画だという印象を与える。それだけに、どうやら物語を語る役目を一手に担った”映像”に、より力を入れたようだ。撮影がすばらしく、とても美しい映像を見せてくれている。
職場の工場が閉鎖され、ただ無言でその場を立ち去り、街を歩いて行く主人公。彼の前には、意図せぬさまざまな出来事が立ちはだかるが、淡々と流れに身を任せているうちに、なんだか予想もしない方向へと、物語は展開して行くことになる。
果たして人間にとって、本当の幸せとは何なのか。そんなテーマを、現代の不安定な世の中を象徴するかのような登場人物たちとの絡みの中で、主人公(と観客)は探して行く。ラストで主人公は、どんな答を見つけ出すのだろうか……、という話である。
狙いはわかるし、そこそこ泣かせる部分もあるのだが、ラストが少々唐突過ぎる。何の伏線も無いが(あえて張っていないというのもよくわかるのだが)、これはあまり成功しているとは思えない。別にわざわざひとつも伏線を張らずに隠すほどの事でもあるまいと思うのである。そこまで『セリフの無い主人公』に、かなり感情移入できていただけに、落ちが今一歩というのは非常に惜しいところであった。
とはいっても、この変わったドラマは、なかなか個性的で悪くない。テレビなどでは見ることのできない凝った映像とストーリーは、一見の価値があるだろう。