『ドッペルゲンガー』30点(100点満点中)

この監督らしい個性はあるのだが

個性的な作風のホラーで、特に欧州で人気の黒沢清監督の最新作。とはいっても『ドッペルゲンガー』は、『回路』や『CURE』といったホラー、スリラー的な作品ではなく、どちらかというと前作『アカルイミライ』に近い、不条理感のある奇妙な雰囲気のドラマである。

もともと、万人受けする作風では無い監督だが、『ドッペルゲンガー』は一段とアクが強く、特にこの監督の作品を初めて見るような方にはオススメしにくい。

次の瞬間に何が起こるかわからないような、画面から発せられる独特の緊張感はさすがで、本作でも予告編であるとおり、トラックに突然人がひかれたりする、ショッキングで印象深いシーンがいくつかある。ただ、散発的に、そうした目を引くシーンがいくつかあるというだけで、映画全体を見渡せば、過去の傑作群と肩を並べるほどの完成度にはいたっていない。

登場人物があまり現実的じゃないから感情移入しにくい、というのはいつもの事だが、そのため“自分探し”のテーマも身にしみてこない。コメディ色も出しているが、せいぜいクスッと笑える程度だ。見終わった後にカタルシスもないし、かといって後を引くような強い印象もない。

そんなわけで、今回は黒沢ファンにも一般のお客さんにも、あまり強くすすめられる点が無いわけである。



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