『私は「うつ依存症」の女』30点(100点満点中)

うつ病がどんな病気か知りたい方に

作家エリザベス・ワーツェルの自伝小説の映画化。これは、本人によれば、「うつ病が大変な病気であることを、大勢に知らせたくて書いた」小説だそうで、映画版でも、鬱病という病気について、患者の感情や行動のディテールにこだわって、なるべくリアルに描こうと挑戦している。

こうした映画の場合、患者役を演じる役者の演技力によってその映画の出来は大きく左右されるが、本作の主人公クリスティーナ・リッチは、その点完璧に近い。彼女は、本作に共同製作者としても関わっているので、入れこみ度が違うというわけである。全身ヌードも披露した彼女の迫真のうつ病演技は、『私は「うつ依存症」の女』の最大の見所である。

自伝小説が原作という事で、主人公が問題だらけの家庭に生まれ、やがて精神のバランスを崩して行く過程がとてもリアルだ。そして、うつになった後の行動、たとえば狂ったように電話をかけまくるとか、やたらと感情の起伏が激しいとか、そのあたりも真に迫っている。

ただ、身近にうつ病の方がいた経験のある人から見れば、この映画で描いている内容に真新しさはないだろう。ただ延々と、うつ病女性の日常を追っているのを見て、退屈するかもしれない。時間制限がある映画ならではの、結末のご都合主義にも、ちょっと拍子抜けする。

実際のうつ患者にとっての、克服への参考になるというわけでは決してないし、すでにこの病気を良く知っているものにとっては、いまさら感がある。映画作品としてとりわけ優れているわけでもないし、結局の所「大勢に知らせたい」、というエリザベス・ワーツェルの願い以上のものはなさそうだ。。

しかも日本では、「うつ病」はすでに社会問題として認知されているので、そういう意味では本作の公開タイミングは遅すぎたという感がある。



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