『クジラの島の少女』85点(100点満点中)

主役の少女の存在感が、観客を圧倒する

ニュージーランドの原住民、マオリ族の族長の一族にうまれた少女を主人公に、男系社会での古い伝統への挑戦と、少女の成長を描く感動物語。

映画が始まって10分もすれば、この映画には“力”がある、と感じることができるだろう。スクリーンから溢れるエネルギーに観客は圧倒され、一気に引き込まれることが確実な、素晴らしい映画である。

古い伝統にこだわり、せっかく生まれた赤ちゃんをすら、それが女だと言うだけで嫌悪する祖父。我々の感覚からすればどうしようもない、ただの頑固親父に過ぎないこのキャラクターだが、単純な悪役というわけではない。

そんな祖父の仕打ちに、1度も泣かず、ただ憂いを帯びた瞳でみつめる主人公の少女は、つまるところこの祖父を愛している。少女は決して逃げたり諦めたりせず、古い伝統さえ受けいれようと努力し、厳しい昔気質の祖父と共に、その(自分を苦しめる)文化を愛し続けるのである。

このストーリーには衝撃を受けた。健気で優しく、素直な少女はただただ神々しく、まさにマオリの伝説そのもののようだ。演じる11歳のケイシャ・キャッスル・ヒューズは全くの新人だが、その存在感と演技力は凄いというほかはない。

物語は、この二人を中心に展開するが、祖母や親類、友人など、脇役陣に人間味ある魅力的な人物を配することで、話に厚みと深みをもたらしている。厳しい境遇の主人公は、しかし決して孤独ではなく、こうした人物たちの愛と協力をつねに得て、健全に育って行くのである。

マオリの文化や風習をさりげなく網羅しながら、魅力的なストーリーを紡いで行く手法には、実に感心する。このときまで、ニュージーランドの歴史や風習など全く知らなかった私でさえ、彼らの世界には魅了された。自国の伝統文化をこれほど魅力たっぷりに撮れ、かつ面白い映画に仕上げること自体、本当に凄い事だと思う。

最後には、余分なセリフなどないまま、深い感動をもたらすラストシーンが用意されている。本当に良いものを見せてもらったと、大満足できる一本である。見終わった後、ニュージーランドを訪れたくなる人が、きっと続出することであろう。



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