『戦場のフォトグラファー ジェームズ・ナクトウェイの世界』50点(100点満点中)
カメラマンの視点の映像は、じつにたくさんの事を教えてくれる
"ロバート・キャパの魂を受け継ぐ男" ジェームズ・ナクトウェイに密着したドキュメンタリー映画。インドネシア、コソボ、パレスチナ、ニューヨークでの、戦場カメラマンとしての彼の仕事ぶりを描く。
伝統的な手法で作られた、まっとうなドキュメントだ。真新しさは無いものの、戦場カメラマンの仕事という題材は、いままさにタイムリーだから、興味のある方なら楽しめるだろう。
撮影機材の進歩により、いままでは表現しきれなかった細かい部分まで、この映画は見せてくれる。たとえば、ナクトウェイのスチルカメラにくっつけたCCDカメラの映像により、プロのカメラマンの視点は言うに及ばず、どのタイミングで彼がシャッターを押すのかとか、彼がどんな呼吸の仕方をしているのかなど、非常に細かい部分まで観客にわかるようになっている。
ムダな音楽を排除した映像には本物ならではの臨場感があり、焼け跡でのファーストシーンなどは、画面から本当にこげる匂いがしてくるかのようだ。
また、そうしたカメラマンの仕事のディテールだけではなく、彼自身の持つ悩みや、何を考えてこの過酷な仕事をしているのか、そして、残酷な戦場の中で、彼がどんな表情をしているのかもわかる。他人の不幸で飯を食っているというジレンマに対して、彼がどう考え、どう折り合いを付けて生きているのかを語る部分は、じつに興味深い。
なお、今回彼が訪れる国々の中では、インドネシア貧民層の、絶望的なまでの貧困ぶりが心に残った。ハイテク高層ビルのすぐふもとで、こんな人々が暮らしているという事自体、ひどいブラックジョークだ。
そんなわけで『戦場のフォトグラファー』は、地味でマジメな映画だから、こちらも心して鑑賞したい作品だ。