『パンチドランク・ラブ』60点(100点満点中)
玄人好みの、大人向け恋愛映画
『マグノリア』『ブギーナイツ』のポール・トーマス・アンダーソンが、初めて95分という”彼にしちゃ短い”時間で作り上げたラブストーリー。カンヌ国際映画祭の監督賞受賞作でもある。
上の2作品を見ればわかるのだが、ポール・トーマス・アンダーソンという人は、あれだけの群像劇をわずか20代で作ったという、とんでもない才能を持った監督である。本作では、コメディアンのアダム・サンドラーを主演にしつつ、彼の役者としてのいい部分を引きだし、一味もふた味も違った不思議な恋愛映画を作り上げた。
冒頭のショッキングな事故シーンで、監督は観客の心を一気につかみとる。この映画のストーリーの冒頭にこのシーンを持ってくるセンスが、はっきりいって普通ではない(←誉めている)。また、彼はシネスコサイズの画面の使い方が非常に上手く、風景を写すだけのシーンでさえ、「この映画は何か違う」と感じさせる。
ただ、『マグノリア』も『ブギーナイツ』もそうであったように、この監督の作品は、ぱっとみて面白いというか、満足を得られるタイプの映画ではない。テクニカルな演出は玄人好みで、いってみれば映画通がニヤリと笑うような、そういう映画である。
本作も、”恋によって人生が変わる”という、普遍的なテーマを、(あまりにとっぴな事件の連続だと言うのに)恐ろしくリアルに描いているのだが、巷に溢れるお気楽なロマコメなどとはまったく次元が異なるので、お客を選ぶといえる。
この一風変わった恋愛映画は、やはり大人のカップルにふさわしい。初老のカップルが、週末の夜にこういう映画を楽しんでいる風景を想像すると、かなりお洒落である。