『カクト』40点(100点満点中)

センスを感じさせるが、ストーリーに勢いがない

俳優の伊勢谷友介が初めてメガホンを取った長編映画。デジタルカメラを使った個性的な画面の中で、イマドキの若者の、一見理解しがたい心情をリアルに描く。

高校卒業後、東京の大学に通うリョウ。彼は、街の若者相手にドラッグを密売していた。そんなある日、友人2人が彼のもとを訪ねてくる。一人は恋人を妊娠させ途方に暮れている幼なじみのナオシ。もう一人は、彼女の浮気現場を目撃して落ち込むマコト。3人はリョウの提案でパーティを開くことにし、リョウの先輩のヤクザのもとへマリファナを買いに行くが……。

タイトルのカクトとは"覚人"または"覚都"、つまり"目覚める人、都市"を意味する伊勢谷自身による造語という。街角で大学生がしゃべっている、そのままのようなセリフがとてもリアルで印象的。演技臭さが無く、自然で良い。役者がとちったテイクを、そのまま使っているようなシーンもある。それがまた、リアリティを生む効果となっている。

『カクト』は、主人公の若者たちが、ドラッグを調達しようとした一晩に起こる、さまざまな出来事を描く娯楽映画だが、ドラマの面白さだけで観客を引っ張って行くレベルにはなく、多くの人は、「長い」と感じてしまうかもしれない。

初監督にしては上手いし、センスを感じさせるが、まだ、一部の人にウケるマイナー映画、の域を飛び出すほどの勢いはない。次回以降に期待したい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.